姉の家でお茶を飲みながら世間話をしていたらインターホンが鳴った。足が悪くたち上がるのが遅い姉の代わりに私がドアを開けると、作業着の男性が立っていた。いかにも実直そうな顔ではあったが、姉は高齢者。最近闇バイトで強盗を働くふらちな者共が跋扈しているので油断ならない。
無愛想にどういう用件か尋ねると、ガス器具の点検に来たという。ガス器具なら東京ガスの人ではないかと思ったけれど、別の会社名の入った名刺だし、家の中まで入られるのは剣呑だから努めて無愛想に応対した。お宅はどこの会社ですか?とかどうして点検に東京ガスではない会社から来るのかとか、こんなに時間を取るのにどうして無料なのかとか矢継ぎ早に訊く。それらに穏やかに質問に答える男性。
よく聞くのは、屋根が傷んでいるから修理すると言って屋根に上がり込んでわざと瓦を剥がしたり、ブルーシートだけかけて何万円も請求したりする人がいるというから、私は姉の保護者としてその者共に立ち向かわなければという使命感に燃えていた。終わってみればきちんと点検の書類も整っており、名の通った会社名が書かれていて、姉の家は電気もネットもガスも全部ひっくるめての契約になっているという。
それならと一安心。もちろんお金も取られなかったし終始感じの良い対応だったけれど、つくずく嫌な世の中になったと思わずにはいられない。犯罪者もやることが鬼畜になってきて、思い出すのは狛江の事件。90歳の女性に乱暴した挙げ句殺してまでカード番号を聞き出そうとした。もし自分の姉や母親がそんなことをやられたらと思うと居ても立っても居られない。そのやり方も信じられないほどの残忍さで聞くだけで吐き気がする。
そしてこれを書いている最中、今度は私の自宅に本物の東京ガスからガス器具の点検に来た。誰が見ても東京ガスの人だけど、今日は疑り深くなっているから、セコムの防犯ベルをポケットに忍ばせて対応した。本物かどうかということは、事前に点検のお知らせが来ていることと、紛れもない東京ガスのジャンパーを着ていたことだけれど、やはり一応疑ってかかる。そちらも何事もなく作業が済んだ。
私は一人暮らしになったとき、セコムに申し込んで安全対策がしてある。多少お金はかかるけれど、ドアにセコムのステッカーが貼ってあるだけでも防犯効果はあるらしい。けれど、操作を間違えると恐ろしく煩わしい。うっかり者のわたしはしょっちゅう誤作動を起こして、夜中や明け方にセコムから電話がかかってくる。
「ご無事ですか?」切迫した声で訊いてくる警備会社の人に「すみません、また間違えました」そのうちオオカミ少年のように誰からも信用されなくなるのが怖い。しかも素早く飛んできてくれるから、ぐちゃぐちゃの家の中を何回も見られてしまった。
これが一番恥ずかしい。
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