オーケストラ時代、というとすでに50年ほど以前、よく一緒にアンサンブルをしていた音楽仲間の・・・あれっ!名前がでない。
そうそうHさんでした。
先日電話で話をしていたら、昔のようにデュエットしようよという話が出た。最近名前が出ないのは序の口、時には全く顔も思い浮かばないことが多い中で、彼女だけは流石にそういうことはないと思っていたのに。日々物忘れが激しくなっていく。
それでHさんの好きな曲を選んでと頼んだら、早速楽譜を送ってきた。そのまま知らん顔して忘れてしまえばヴァイオリンは弾かなくてすむなとしばらく逃げ腰だったけれど、結局、練習日が決まってしまい仕方なく楽譜に目を通すことになった。
ぶよぶよになった指がはたしてうごくのか。固まってしまった上半身は楽器を支えられるのかしら。楽器は休眠状態、持ち主はポンコツ。最後のステージが昨年9月。その後ロクに練習していない。時々生徒とキラキラ星彈く程度の練習では全く仕様もないと思っていたけれど、彈いてみると楽に体が動く。これは驚いた。むしろ引退したことで緊張が取れて力みがなくなった。
長年の訓練とはなんと恐ろしいものか。楽々音が出る。楽器もリラックスして柔らかく良く響く。久しぶりに聴く我が愛器の声。本当にお前さんは美しい声だねえ。ここまでは良かった。
さてどんな曲かな?
私は初めて弾く曲の譜読みが大好きで、ワクワクしながら練習に取り掛かる。まず一度サッと目を通す。8小節間をもう一度。若い頃ならほぼ初見でもすぐに覚えられて、二度目はもう間違えないくらい譜読みの速さを誇っていたけれど、ありゃー!何回弾いても覚えられない。
何回も何回も・・・弾いても弾いても。やっと最後までたどり着くとまた初見の気分。
そしてHさんもまたぼやく。彼女の初見の速さは驚異的だった。私も負けじと頑張っていたオケ時代。その彼女が同じように嘆くとは。
しかし、引退後妙に太ってしまいぼんやりしていた私の体中の血液が流れ始めた。雀百までとはよく言ったものだわ。かと言ってもはや演奏家として復帰できるとは思えない。集中力や気迫が残っていない。これからは一アマチュアとして心底楽しんで演奏しよう。とか思っても燻っていたプロ根性が頭を持ち上げてくる。すぐにムキになる。弾けなきゃ悔しい!でも何回弾いても音が覚えられない。
ということは体に染み付いた熟練した技術は保存されるけれど、スカスカになった脳はもとに戻らないということ?