引退宣言からやく8ヶ月、ヴァイオリンはケースの中でスヤスヤと眠っていた。時々生徒のレッスンのときに取り出して弾く以外は気力も体力もなかったので、もうこれで私の人生は終わったと思っていた。
なにも欲しくないし、したくない。まさに鬱だったのだと思うけれど、力が抜けて眠りに眠ったおかげで漸く人間らしくなってきた。体力はもう落ちているのは仕方がないけれど、膝痛まで治ってきたのが驚きだった。
時々友人たちから電話をもらっても「いきてるかーい」という安否確認だったりする。以前なら「ねえ、コンサートどうする?」だった会話もめっきり減ってしまった。それはそれでもう火を落としてしまったのだから仕方がないと思っていたけれど、レッスン室の模様替えと楽譜の整理が進むにつれて楽器が気になってきた。
クローゼット一杯の楽譜、片付けても片付けても湧いて出てくる。同じ譜面がいくつも。パラパラとめくると書き込みの数々が思い出を誘う。へえー、こんなボウイングとフィンガリング?なに考えていたのかしら、とか。だから当分楽譜整理は終わりそうもない。困ったことに古い楽譜はホコリやダニや色々含んでいるらしく、喉の調子が悪い。毎日喉のケアをしていたけれど、このところ風邪をひいた状態で鼻水や咳がでる。楽譜整理症候群とでも名付けようかしら。
楽器は、はじめは30分も弾くと立っているだけでくたびれた。体力も筋力も低下して息が続かない。けれど昔取った杵柄とやら、だんだん長時間立っていられるように、一日練習すると次の日はくたびれて弾けない状態だったのがいつの間にか毎日練習する習慣が戻ってきた。ここ数日は実に4時間の練習が続けられるようになった。体が軽くなってくる。動きが早くなる。
けれど私の性格からしてなんでもやりすぎる。このまま続けるとまたやりすぎてダウンするというお決まりのコースになりかねない。だから今日は休暇とうだうだしている。実はサボる口実だけど。練習再開した頃は少しだけ肩が凝った。やはりうまく力が抜けない。けれど、今はもう肩こりが治ってきた。よしよし、リタイアに向けての第一歩の再構築は着々と進んでいるらしい。
それというのも友人たちのお陰で、先日、デュオに誘ってくれた人、今年の末のコンサートに誘ってくれた人、8月の発表会に「弾かない?」と言ってくれた人など、私の回復を見守っていてくれた人たちからの温かいお誘いが嬉しくてようやくヴァイオリン復活が実現することになった。引退宣言をしたときにはもう二度と表に立つことなど考えられなかったくらい消耗していた。心も体も不調続き、楽器を持ち上げるのもしんどかったのに、皆さんありがとう。
それでもこれからは規模を縮小して小さなサロンで、長時間のコンサートはやめて、聽いている人たちが気絶する前に終わるよう頑張ります。
と、言うのは、私は長い曲をひくのが好き。自身の室内楽コンサートで1時間近い曲を2曲並べて、聞き手の皆さんをうんざりさせたこともあった。よくぞ、殺されなかったと思いますよ。また生き延びて活動を始めたと聞いて殺意を抱く人がいないといいけれど。
ヴァイオリンは・・・というより、何をやっても力を抜くことが最大の課題となってくる。そしてそれが心身ともに健康につながると、この期に及んで実感しています。例えば一時間の曲を弾き続けるのも、大変だと思うでしょう。でも必要以外の力を抜いてしまえば実現可能、楽器をやっている人々はそれが生涯の課題、楽器をやっていない人も同じく、心のケアでも何にも共通した生きるテクニックです。
猫を見てご覧なさい。彼らは喧嘩するとき以外は脱力の名人。どんなところにも潜り込める達人なのだ。それで彼らは液体ではないかという説も浮かんでいる。
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