2014年2月6日木曜日

親のすね

弓の専門家Hさんの工房で、弓の毛替えをしてもらった。
「弓の」Hさんとお名前の前に付くくらい有名な専門家で、私はお父様の代からずっと通っている。
先代も名人だったけれど、2代目もたいそう腕がいい。
他の楽器屋さんで張り替えても、中々満足がいかず、結局Hさんのところでもう一度張り替えてしまう。
毛を張り替えて乾かしてもらって(水で濡らしながら作業するので)家に帰ったときにすぐ使える状態になるまでに1時間くらいかかる。
その間他の部屋で待っているのだが、退屈なのでその辺に置いてあるコンサートのチラシを見ていたら、ヴァイオリンにここのご主人と同じ姓のHさんという若い男性がメンバーとして載っていた。
経歴を見るとまだ学生さんで、しかももうキャリアを積んでいて、コンクール歴入賞など華やかで、将来を嘱望されているようだ。
しばらく見ていて、そうか!もしかしたらこのお宅の息子さんかも、と思いついた。
毛換えが済んで帰り際、この方はお宅の息子さん?と訊くと、そうなんです。やっぱりね。
それから話を聞くと音大の授業料の高さに話がいって、本当にたいへんです、と言う。
私の元生徒と同じ大学なのだが、今や、その大学は最も授業料が高いと評判の大学になってしまった。
以前はそうでもなくて他にもっと高い大学があって、私の古い知識では、「そちらは高いから、こちらにしなさい」と生徒に勧めてしまった。
ところが後から聞いたらとんでもないことに、今やその大学が一番高いそうなのだ。
そしてHさんは、なんと3人のお子さんが全員ヴァイオリンをやっていて、そのお金のかかりかたは尋常でないらしい。
チラシに名前の載っていた息子さんのお兄さんは留学中だとか。
3人にヴァイオリンを買うということだけでも、気の遠くなるほどの出費になる。
玄関に下りてからも、悲痛な表情でその大変さを語っていた。
演奏で身を立てるのは生半なことでは出来ない。
かといって私みたいになんだかぼんやりしているうちに仕事が回ってきて、不思議にうまくいくこともある。
こればっかりは、運としか考えられない。
3人のお子さん達が1人くらい弓の専門家になってくれれば、お父さんとしては教え甲斐も仕事のし甲斐もあるというもの。
しかし、後を継ぐ人はいないらしい。
惜しいなあ。
ある人に言わせればHさんの腕は世界の中でも上位にランクされるらしい。
その腕を受け継ぐ人がいないのは、どう考えても惜しい。
Hさんのところへ行く前に行きつけの美容院に寄った。
弓のケースを後生大事に手元に置いていたら、値段はどのくらいなのかと聞かれたから、指でこの位と示したら・・・ですかというから、その10倍と答えたら美容師さんがびっくりしていた。
とんでもない嘘っぱちだと思われたかも知れないが、本当に高すぎる。
何故かというと、弓は楽器と違って消耗品で(楽器は弾き込むと良くなっていって何百年も生きながらえる)良い作品が良い状態で残るのが難しく、数が少ない。
良い状態の物を手に入れたい人はごまんといる、というので、値段がつり上がる。
私が新しい弓を手に入れるために楽器屋さんに引き取ってもらった弓は、即座に次の買い手が見つかったらしい。
その値段には唖然とした。
私は下取りとして出したので現金収入はなかったけれど、楽器屋さんはたいそう儲かったと、当人の口からうれしそうに聞かされて苦笑した。
Hさんはこのあとまだ暫くお子さん達にガリガリ脛をかじられて息も絶え絶えになると思うけれど、なんと言っても強いのは、最高の弓が与えられるということではないか。
弓は第二の腕だから、そういうお父さんがいたら絶対の強みになる。
私もHさんの娘になりたい。
でも私は彼のお父さんの年代に近い。やっぱり無理かなあ。








































4 件のコメント:

  1. 弓の毛替えもすごい職人の技術なんですね。息子さんのバイオリン、聴いてみたいです。
    さて、こんなところでなんですが、鳩山さんから手紙をいただきました。今年の秋には東京に戻られるようです。まずはお元気そうで何よりです。
    http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=61788

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  2. 鳩山さんご帰還ですか。それはうれしいです。
    私の所にはまだなんのお便りもないですが
    沖縄へ行った時にその様におっしゃっていたので
    そろそろかなと思っていました。
    そのうちご一緒に訪問しませんか?

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  3. nyarcilさま
    さきほど「チロリン村」訪問したらコメントが前のように
    入れられなくなっていましたが、今回限りでしょうか。
    この先もログインが必要なら登録しますが。

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  4. nekotama様
    なぜか「コメント不可」設定になってました。 すみません、直しました。
    ご連絡ありがとうございます。 いつか鳩山さんのところ、一緒にいきましょう。

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