最近大変忙しくて 去年の春からはや1年、これだけの重みを持った年は今まで味わったことはなかった。
古典音楽協会はコンサートマスターの角道徹氏が今年85歳となる。今年の春と秋に彼の最後のステージとなる楽団創立70周年の定期演奏会を予定している。角道さんの引退後は新しい体制となるので様々な準備に追われて何回も何回も会議を重ねた。
それで思ったのはこれほどアンサンブルの良い合奏団なのに、それぞれの団員の性格を知ったのは初めてということだった。いつも音でのみ会話をしているので一人が音をだすと一斉に皆が合わせる、それは見事なものだった。ちょっと音が揺れてもすぐに察知して皆がさっと集合。
ところが会議ではこれほど様々な性格と意見が分かれるとは思いもよらず、非常に興味深い人間観察の場となった。今までコンサートマスターの元、指示されればさっと合わせられるということは言い換えれば非常に従順、真面目。それが音の綺麗さとなって出てくる。けれど今回のような今までやったことのない事務仕事や決め事、例えば役割分担とかどのように運営するかなど問題が山積みなのに今まで経験したことがないので、皆呆然と立ちすくむだけ。何回も同じことを巡って決まったか思えば決められず、ほとほと疲れ果てた。
ああ、この人こんな性格だったのかと新発見があったり、嬉しかったり腹立たしかったり。しかしようやく大まかな枠組みが出来上がって、裏方の仕事の大変さを改めて思い知らされた。
明るいステージで輝く人々。しかしこの2時間ほどのコンサートのためにどれだけの裏の仕事がなされるか。考えるといつも私は感謝の気持でいっぱいになる。私達「古典」のメンバーは幸いにして毎回上野の東京文化会館を使わせてもらえるけれど、この会場獲得の難しさは演奏家とマネージャー泣かせ。客足の良い土日祝日を皆欲しがって殺到するから倍率高い。やっと会場が取れてもこれはほんの入り口。そこから曲目の決定、共演者を選び出演依頼をして練習開始。
その後のマネジメントはチラシ、ポスターの作成、印刷、出来上がった印刷物の郵送やチケット窓口へ販売依頼、知人友人たちへコンサートを知らせて来場の依頼。招待状の郵送などなど。
当日会場はたくさんのスタッフが必要となる。チケットを受け取る、招待状を預かって招待客に渡す、名前の確認、チケット代金を預かる、当日券を売るなどなど。そしてこの数年はそれに加えて新型コロナの感染対策まで。会場の大きさによるけれど、1000から2000の人たちへの心配り、マスクや消毒は大丈夫かなども、これでもかという仕事の多さ。ステージで拍手を受けるとき、私たちは達成感で幸せになれる。
しかし裏方さんたちはコンサートの進行状況を見て終了時間内に終了するか、ハラハラ・ドキドキしている。無事終了してから出演者たちは着替えて満足して演奏で消耗した体力を取り返しに夜の街でビールを飲む。しかしあとに残った裏方さんたちは、演奏者へのプレゼントや花束をより分け、当人へ渡す。受け取らないで帰った人には誰かに託したり、郵送したりして当人へ届くようにする。お金の問題は一番たいへんだと思う。前売りや当日券をまとめて間違いのないように。そしてあとを片付けてようやく仕事終了。
そんなにもたくさんの仕事があるのに私たちはそれを当然のことのように思っているけれど,無事に終わるには大変な手間がかくされているのだ。それを今回、いやというほど思い知らされた。会議が進んで、マネージメントの議題になったとき、それぞれの分担をどうするかで長い議論が度々繰り返された。費用をなんとか少なく抑えようとするとその負担は自分たちの仕事の増大につながってくる。例えば印刷代を抑えようとすると自分でやらねばならない仕事が増える。楽器を弾きながら他のことに気を取られては良い演奏はできない。だから演奏家は初めからマネージャーを頼む。「古典」は幸い長年同じ事務所にお世話になったので、なんの心配もなく演奏に専念できたのだった。
メンバーもずっとほとんど変わらずともに年を重ねてきた。今回コンサートマスターと数人のメンバーが入れ替わって新生「古典」として再出発する。気がつくと最初の頃は意見も言えなかったようなおとなしいメンバーも今ははつらつと自分の役割をこなしている。なんだか声まで大きくなってきて、役割が人を育てるものだとつくづく思った。
nekotamaは、私はこれにて退場と思ったけれど、楽器は弾かなくても役割はあった。プログラムの構成や解説などで影で暗躍をさせていただこうかと思います。楽器弾くのは好きだけれど、子供の頃からものを書くことも好きだった。小説家になりたいと思ったけれど、各々のひらめきはあってもそれを構成して大きな物語にする力量はない。だから身内でコソコソものを書いて行くくらいが関の山。一生の仕事を手に入れたようだ。
それにしても、去年から今年の今まで、なんという大変な時間を過ごしたことか。重さで押しつぶされそうになってもなんとかすぎるものだと思う。新しいシリーズが始まって数年も経てば鼻歌交じりにできるようになるのだろうかと期待しているけれど。
それにしてもコロナでの打撃もあり資金はかつかつなので、皆様のご来聴を心よりお待ちしております。今までに変わらずよろしくお願い申し上げます。