それはそれは困ったことに、この暑さと湿気のおかげでヴァイオリンはご機嫌斜めなのです。
世間様にうそをついて引退するとわめき散らし、何か月もの間放置された楽器の恨みを今返されているのか。 先月、今月と調整をお願いして弦楽器工房に通っているけれど、どうもいまだに理想の音は出ていない。 この季節はもう無理だから我慢するしかないと周りの人たちも言うし、マイスターもなかなか難しいというし、でも私は短気な割にはしつこくて、何回も調整に通う。
特に下から二番目のD線がシャリシャリいうのが気になる。 工房のご主人のTさんは非常に穏やかな生真面目な人だから、努力を惜しまず私の注文に合わせて調整してくださる。 強めとか固めとか理解に苦しむ言葉でしか言えないのがもどかしい。
ある時我が家の周辺で消防自動車の出動が多かった時があった。 毎日のようにサイレンが鳴り別に火事らしいこともない。 けれど、いつもは完全に空調の効いた別室に置いてあるのも心配になったので、私の寝室に楽器を移動させたのが良くなかったようだ。 私と猫の湿気のこもった寝室は、一応エアコンはかけているものの湿度は少し高かったから楽器のコンディションに響いた。
移動させて数日したら少し調子が悪くなってきたので元の部屋に戻したけれど、ああ、調子が落ちてしまったと感じて調整に出した。 Tさんは穏やかながらいつもよりきっぱりと「寝室はいけません」という。 わかっていたのに火事が心配で浅はかなことをしたと思った。 それ以来どうも調子が悪いと思ったら微小なはがれが見つかって修理をしてもらった。
これでもう大丈夫と思ったけれど、それ以来鳴り方がいまいち。 皆さん梅雨時対策はどうしているのかしら。 長年の楽器との付き合いがまだ苦労の種。
最後の調整でシャリ感は減少、調整の翌日、久しぶりに乾いた音がしたと喜んでいたけれど、台風が発生するたびにくぐもった音になったりする。 幸い今は私の家での練習が多く、外に楽器を持ち出すことなくやっと小康状態になったのがありがたい。
私の運命はこのところ猫のご機嫌取りと楽器の調整に明け暮れる日々になってきた。 なんということか、楽器も猫も共通点が多いことに最近気が付いた。 まずは両者ともに変幻自在、文字通り猫の目のようにご機嫌がかわる。 どれほど気をつかうことか。 決してこちらの言い分はとおらない。 しかもとんでもなく魅力的で扱いにくいのに決して嫌にならない。 毎日下手に出てご機嫌を損ねないようにご奉仕する。
猫は好き嫌いが激しく、時々餌が気に入らないといって食べてもらえないこともある。 ヴァイオリンも、せっかく買った弦が気に入らないと鳴ってくれなかったり。
早く梅雨が明けないかなあ。 最近そのことばかり考えている。