もともと歌が大好きで、幼少のころ家にあったレコードのアルバムには、シャリアピンの歌う「蚤の歌」なんかも入っていた。シャリアピンだからヴァイオリンはもちろんハイフェッツ、ピアノはルビンシュタイン、チェロはピアティゴルスキーの時代のSP盤。
ヴァイオリンを始めるまで一切音楽教育を受けたことがないから、それが私の音楽の全部だった。SP盤からLP盤になってからはあっという間にレコードが増えて、シュワルツコップ、モナコ、カラス。そのうちにディスカウ、シュライヤーなど。夢中で聞いた。
中学生のころ、学校から帰るとまずモーツァルトの「シンフォニー40番」それからマーラーの「巨人」または「なき子をしのぶ歌」もちろんディスカウで。それからほかの曲を聴くというのがコースとなっていた。シュワルツコップのモーツァルトの歌曲などは一番のお気に入り。ませた子供だった。ただし音楽の趣味だけの話だけれど。音楽以外は猿で、遊び惚けて蜂に刺されたりしていた。
ヴァイオリンを弾くときも歌の人ならどう歌うかなんてよく考える。ここで、ブレスしてとか。それで、もしヴァイオリンが弾けなくなったら歌いたいとずっと思っていた。
放送関係の仕事をしていた時に毎週のように会った女性コーラスのY子さん。仕事で地方に行くときも一緒に行動するなど仲良くしていただいた。私は歌が好きでいつかは自分でも歌いたいという夢を語ると先生を紹介してくださった。
そして第一回目のレッスン。若く美しい、しかも以前はヴァイオリンを弾いていたというソプラノ歌手が我が家に。あっという間にこの方ならというインスピレーションを受けた。お米じゃないけどひとめぼれ!
発声練習が始まると壁を震わすほどの声量で、かつてロンドンアンサンブルが毎年我が家で練習していた時のことをおもいだした。そしてその説明が、本当にわかりやすい。自分が楽器を弾いているときに考えることも声を出すことも、同じように説明できると思ったら、先生も同じように考えたらしい。ヴァイオリンの発声にたとえられると、ああ、なるほど。
楽しい時間はアッという間に過ぎた。ほんの一時間弱なのにへとへとでもう寝込むほど。体全体を使って声を出すとかなりの運動量らしく、翌日はなかなか起き上がれないほどだったけれど、これで誤嚥が改善されると確信。誤嚥のためだけでなく精神面にもとてもいい。ああ、もっと早く始めるのだったなあとかすかな後悔の念。
先日のコンサートの混乱を拭い去ろうと、バッハのチェンバロ伴奏付きのソナタ第3番を練習し始めるとすがすがしく心洗われるようだった。ああ、ヴァイオリンも歌もいい!