潜水艇タイタンは酸素保有の期限が切れておそらく内部では生存者は絶望のうちになくなったと思うと、その恐怖や後悔など計り知れない。私は狭いところは苦手だし、海はもっと苦手。なぜかというと底しれない深さがこわい。それがある時期にスキューバダイビングを やっていたのだから「好奇心が猫を殺す」の諺通り。
私は好奇心は旺盛でも臆病者だから決して安全が約束されていないものには関わらない。普通の人はたいていそうだと思うけれど、世の中に冒険家という人は数しれず、体力気力ともに恵まれていれば私でもそうなったかもしれない。まして大富豪にもなったというような人は並外れた気力の持ち主で経済力があってなんでも欲望が叶うなら、世の中に自分の勇気を知らしめたいと思うに違いない。
あいにく私は体力も気力も、まして経済力もないし、世間に認められたいというような野心もないから君子危うきに近寄らず。君子?でもないし。臆病であることはある意味生き残りの勝者かも。かつてアラスカからの帰路の途中、飛行機上から真っ白な大地を眺めていた。そこはマッキンリー(最近は名前がかわったようだけど)に挑んで雪の大地で消息を断った日本人の冒険家植村直己さんが消息を断ったところだった。こんなところでただ一人ブリザードに行く手を遮られながら進んだ彼の気持ちはなんだったのかと感慨にふけった。
しばらくして私はスキューバダイビングをやめた。あの重たいボンベを背負いながら足びれを履いたりするのもできないし、私のようになにかに気を取られると他のことに注意がいかなくなることなど、決定的にこのスポーツは自分に向いていないと思ったからで。でもほんの数年でも海の中の美しい景色をこの目で見られたということが素晴らしい思い出になっている。
そして今報道番組で知ったのは、米海軍の報道によれば、タイタンは出航して数時間で爆発してしまったらしいということ。それを聞いて正直な思いは「乗船者の苦しみの時間が少なくてよかった」ということ。刻々と酸素が切れる時間が迫っていたらパニックどころの気持ちではない。私なら気が狂う。戦体は硬いチタンという金属でできているらしい。硬い分、金属疲労があれば粉々になりやすい。内部からの圧力によって爆発、圧力室の壊滅的な喪失が原因だそうでおそらく粉々になったから生存者は絶望的だという。
船体のガラス窓は1300メートルまでしかテストがされていない。ここ3年間なんのメンテナンスもされていないというから、よくそんなものに乗っていくものだと思う。勇気があるというより蛮勇というほうが当てはまる。その辺を確認しなかったのだろうか。乗船者の中に宇宙に行った人がいれば、この次は深海へというのが当然の欲望かとも。しかし学術的な目的ならばまだ許されても、自分がそういうことをして勇敢さや好奇心を世の中に示したいという気持ちであればはた迷惑なこと。
自分の人生自分で決めるさと言われれば、まあ、どうぞと言うけれど、安全に安全を重ねての冒険でなければ無鉄砲ではた迷惑と言わざるを得ない。
スキューバダイビングによる事故は大変多いらしい。あまり報道されないので知らないけれど、日本でもトップクラスのあるセーバーから聞いた情報なので間違いはないと思う。その彼は、スポーツクラブの指導者たちの安全意識の少なさに呆れると言っていた。どうしたらいいでしょうと泣きながら電話してくる指導者がいるとか。「とにかく助けろ」と言うのは当然のことだけれど。おお、こわ!
私は海が怖い。青くどこまでも広がる海は素敵だが、もう中に入る気はない。でも時々あの美しい海中の景色を夢に見る。