知人の納骨のために暑いさなか隅田川を渡っての墓参りの帰り道、悲しい思い出にふけって多少涙ぐんでいたからだと思う。信号無視で捕まった。
東京駅から右折して日比谷通りに至るまでの信号が3つか4つ、1つ目は直進と左折の矢印が同時に出る。しかし2つ目か3つ目の信号機だけ直進が青でも左折の矢印が出ない。日曜日の昼過ぎで他に車がいなかったこともあって気が付かなかった。もちろん一回ごとにちゃんと信号を見ないといけないのはわかっているけれど、心が塞いでいてなんとなく。これが事故の元だということもわかっている。普段の私なら絶対に見逃さない・・・と思う。
左折を始める前に対角線上にパトカーがいるのも目の角で見ていた。しかし左折を終わるとパトカーが動き出した。私の後ろについて走ってくる。自覚症状のない私は平行に並ばれても、なんでこんなに一緒に走っているのか不思議だった。他に車もいないのに馴れ馴れしく呼びかけてくる。「そこの車停まってください」
おそらく相手もわかっていたと思うけれど、故意ではなく不注意ということが。穏やかに丁寧に呼びかけてくるのでやっと気がついた。「え、私?」鼻先を指さして窓越しに見るとのんびりと頷くおまわりさん。「そこの信号は直進だけで左折はあとから出るんですよ」全く同じような交差点の一つだけ違う出方をするなんて。何ゆえじゃよ!
多分引っかかる人がたくさんいるのだろう。巣の中の蜘蛛のように待っていれば獲物がとれるのだ。パトカーが停まっている時点で気がつかなければド素人。運転歴59年の私がまんまと捕まった一番つまらない捕まり方だった。それで今日は運転免許センターで講習と実技試験を受ける羽目となった。来年免許証の更新ための罰ゲームみたいなもの。
時間が来て集まったのが10人ほど。これがみんな違反者なのかしら。4年ほど前の更新の普通の教習のときよりも多少元気がよろしい人が多い。普通のときにはトイレに行ったまま自分の部屋がわからなくなったとか、歩くのもやっとで大丈夫かしらと思う人がたくさんいた。たぶんそういう人はとっくに免許を返納しているものと思える。もはや違反すらできないとか。
本当にドキドキした。もしこの教習で落とされたら何回も試験を受けて、それでも無理となったらもう免許はもらえない。すると猫を連れて北軽井沢に行くこともできなくなる。せっかく猫の部屋を作ってもらったのに無駄になってしまう。
まずはいつもの認知機能のテスト。これはもう3回目だから手慣れたもの。そして実車テスト。前回のテストでは慎重に走ったら遅すぎると言われたから、今回は景気よく多少やりすぎかと思うほどシャカシャカ走ったら早すぎると言われた。それも認知機能の衰えからくるコントロール失調みたいな言われ方。口を尖らせて前回言われたことでそうなったと抗議しようと思ったけれど、やめておいた。
結果としては良い点数をもらえたけれど、その後の視力検査がいけません。視力、動体視力、暗さに対する順応性などは今までより衰えている。やはり年齢には抗えない。
メガネで矯正できる部分が少ないことも残念で、さてどこまで運転できるか未知数。運転大好きな私が運転しなくなる日はもうすぐそこに迫っている。多くのことを次々に諦めることしかできないなんて。
女性の受験者は二人。試験後にお昼食べて帰りましょうと、どちらかともなく誘って話をしていた。お仕事は?などといううちに私がヴァイオリン弾きだというと非常に喜んで「私のいとこがミュージシャンで富山の滑川のあるグループのヴォーカルなの」と話が弾む。
そのうちに私の元生徒だった女性が某ヴァイオリン奏者が好きで、彼女は彼の側にいたいために舞台関係のスタッフとして働いているというと、その人は喜んで、実は私もその人が大好きでよく聴きに行くと。本当に世の中せまい。おばさん同士はあっという間にコミュニケーションが取れるのにおじさんたちは皆ブスッとして、てんでんばらばらに散っていった。