いつも猫に起こされるのは夜明け前。もうすぐ夜が明ける頃お腹が空いたといって鳴き始めるから、渋々起き上がって少し食べさせてもう一度眠ろうと思うけれど、もう眠れない。それでまたしばらく起きて窓の外を覗いたり白湯を飲んだりしているうちにあっという間に夜明けがきて、そのまま起きてしまうからいつも睡眠時間が短い。
時々まだ眠りたいと思うときには布団に潜り込んで横になっていると、しばらくして眠っていることもある。そんなときに夢を見た。昨日のこと。
つい先ごろまで仕事をしていたからその仲間たちがぞろぞろ登場してきた。どの顔もニコニコしている。ああ、懐かしい仕事仲間たち。本当に楽しかったのに、ここ2年半ほどの擦った揉んだですっかり忘れていた。
同世代もいたけれど、大抵はわたしよりずっと年下の息子や娘の世代なのに、なんとも愉快に過ごしてきた。私は本当に幸せだったのだと改めて思い出した。その仕事仲間にマンドリンのSさんがいて、彼女とは仕事でもプライベートでも仲良くしてもらっていた。
毎年東京マンドリンクラブのコンサートが千駄ヶ谷の青少年センターで開かれて、それを聞きに行くのが恒例だった。去年はあまりの忙しさにいかれなかったけれど、色々解決して余裕ができたので今年は聞かせてもらった。マンドリンの音色は弦を指で細かく震わせるトレモロで演奏するので、不思議に心揺さぶられる。
今年の曲目は前半はクラシック、後半は越路吹雪特集。
前半 プーランクの「牝鹿」 シューベルト「交響曲 未完成」
マンドリンの音は普通の弦楽器よりもボリュームが出ないけれど、ビシッと決めるときには面白いように決まるのだ。そんなことを考えながらのんびりしていた。シューベルトの二楽章に差し掛かり、そういえば三楽章ってどんなメロディーだったかしら?思い出せない。
ついに私もボケたかと思っていて気がついた。思い出せないのは当然、だから「未完成」の名がついたのだ。この曲は二楽章までしかないのだ。いくらオーケストラから遠ざかっていたとはいえ、こんなことを考えるようではもうおしまいなのだ。苦笑い!
後半は思い出の越路吹雪特集。越路さんとは「題名のない音楽会」でお目にかかったことがある。リハーサルに現れた彼女は顔色が悪く髪の毛ボサボサ、声も出ない。「これが?あの?」越路吹雪?有名なあの人なの?
本番当日心細げに佇んでいる彼女。しかし、舞台袖でスタートの声がかかった途端、オーラが噴出した。あの情景を思い出すたびに私は胸がいっぱいになる。そこには輝く火の玉のような大スターがいた。あっという間に私達を虜にした。
マンドリンコンサートの演奏者の中には、リズム担当のゲストとして以前スタジオやテレビ局などで一緒に仕事をしていた人たちがいて、彼らの上手さには舌を巻く。パーカッションやベースの小気味よい決まり方が素晴らしい。こんな人達と仕事をしていたのだ。なんて素敵なことだったのか。終わってみてやっとわかったこと。
外は土砂降り、雷鳴が轟いていたらしい。表に出ると小雨の中、球場から出てきた人たちとコンサート会場から出てきた人たちで歩道はいっぱいでノロノロ進む。目と鼻の先にあるかつて勤めていた音楽教室で私の生徒がピアノ合わせをしている。時間が間に合ったら聞きに行くからと言ってあったのに、終演が伸びたのと人混みと悪天候で遅くなってしまったので諦めた。タクシーも捕まらないし、徒歩では間に合わない。地下鉄で行くのはもっと無駄。
電車の窓には土砂降りの雨が叩きつける。最近私は電車に乗ると必ず席を譲られる。ずいぶん老けて見えるのだろうなと思う。2年半の嫌な時間を過ごしていたときは鏡に映る顔は般若だった。やっと自分を取り戻し始めたけれど、もう時間は戻らない。
姉が来て私の顔を見て「nekotamaちゃん、前に戻ったね」といってくれたから少しは元気に見えるのかな?やっと。