北軽井沢のしんと静まり返った夜は、もののけが跋扈するのかもしれない。けれど数日前、夜中にいきなりドカンと屋根になにかあたったか、誰かが壁を叩いたかと思えるような音がして流石にびっくりした。窓という窓から家の周りを覗いて音の原因を確かめようとした。森は真っ暗。
もし、人がいたら怖いけれど、誰かがいる様子もなく一安心。一人暮らしの美女を狙っているならお生憎様、ここには恐ろしく気の強いアマゾネスがいるからお気を付けて。しかも化け猫と一緒だから噛みつかれたら大怪我するぞ。
家の玄関の真ん前に樹齢何年になるか数えられないほどの大木が立っている。元のこの家の持ち主、人形作家のノンちゃんのお気に入りだった。その大木に巻き付いて樹液を吸って生きてきた太いツタが数本あった。長年に亘りチュウチュウと大木の汁を吸って来たので、直径4,5センチもあろうかと思える太さで巻き付いていたのを私が根こそぎ退治したのだった。しっかり巻き付いていたので遙か上の方までは切り取れず、ぶら下がっていた。それが数年経って枯れて落ちてきたらしい。数本のうち一本だけ残してあとはみんな落ちてしまった。ああ、この音だったのかと思った。
朝ウッドデッキの落ち葉を掃いていたら風が吹くたびに身の回りにバラバラと弾丸のように落ちるどんぐり。この季節、森は賑やかな音で季節の移り変わりを教えてくれる。ここで胸を抑えて「ウーン、やられた」と演技しようかと思ったけれど、ひと気がないので無駄なことはやめた。あくまで観客がいなければやる気にならない。
ヴァイオリンも聴いてくれる人がいなければ練習する気になれない。そういうところが真の芸術家でないのがバレてしまう。せっかく楽器を持っていったのにサボりっぱなし。ノンちゃんは私のヴァイオリンが自分の家に響きわたることがうれしくて、この家を私に残してくれたのに。反省して努力いたしますよ、ノンちゃん(田畑純子さん)でもやっと引退したのだからしばらくはお休みをください。そのうち軽井沢に演奏拠点ができるかもしれない。森の木に語りかけながら弾けるようになるかな。
今回も4日間しか日がとれなかったので、大急ぎで庭仕事。いただいた球根がたくさんあったので馴れない作業、へっぴり腰でスコップで穴を掘る。手入れがされていなかった原始林を切り開いて作られた別荘地は、枯れ落ち葉が堆積して木の根っこがそこここに、地面が凸凹で掘りにくいし、まっすぐに並べて植えるのも一苦労。初日は雨で作業できなかったけれど、二日目は少し晴れ、気持ちの良い気温と風と、命の源のようなゆっくりした時間。
楽しく作業を終えてぐっすり眠ったその夜明けには、体中ミシミシと痛む。腰痛はするわ、足は攣ってしまうわで年齢を思い知らされた。それでも心地よい疲れは朗らかな気分を運んでくれる。一人でいてもなにか喋っている。猫はなんにも聞いてくれない。彼女は興味津々の森には出してもらえず、1日中ふてくされている。一度ハーネスを付けて散歩に連れ出そうとしたらくねくねと体をよじらせて、どうしてもハーネスを付けられなかった。
なんとかして森になれさせたいけれど、野生動物がいるので危険でもあるし。ただいま彼女の家を建設中。少し大きめのゴミ用ネットみたいな。今回の滞在中に何でも屋さんがセットしてくれた、なにやら居心地良さげな鳥小屋風。ここに私が入ろうかなと言ったら、作業を見に来た仲間たちがここでキャンプしたいと言っているそうで。人間に盗られないように、猫よ頑張れ!
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