野良は自慢じゃないが知能が高く人の気持を読み取る術に長けている。私が北軽井沢に行くときにこっそりと旅支度をするのはすぐに分かってしまう。「また私をおいてどこかに出かけるのね」それがわかるとぷりぷりしながらさっさと近所のスペアの飼い主さんたちに媚を売りに行くのだ。
出かけるときは前日から車に荷物を積み込んでいつでも出発できるようにしてある。今回は北軽井沢にいよいよイングリッシュガーデンを出現させるための試み。
少し前に花郷園で買い込んだクリスマスローズをすべて積み込んだ。きっちりと鉢を並べるとやっとどうにか全部いれることができた。やれやれ、今回は猫が二匹になり、久しぶりの遠出なので荷物が多いところにクリスマスローズが20本、それに添える花が10本ほど。車の中はジャングルかと思えるほどの植物の葉が茂っている。
いまごろ車の中は植物の息でムンムンしているに違いないから、乗り込むときにご挨拶をしておかないと意地悪をされそう。問題は二匹目の猫をケージにだましていれるのに成功するかどうか。とりわけ賢く人の気持を読むのができるので一筋縄ではいかない。昨日から置かれている新しいいケージのにおいを嗅いでいる。なにか察しているかもしれない。しきりに膝に乗ってくるのを邪険にしたらとっとと外の空気を吸いに出ていってしまった。
花郷園で株を選んでもらって買ってきた花はいずれもしっかりとした株で、1週間ほど自宅のベランダや浴室で暮らしていた。私は20鉢ほどと言ったのにそれよりもたくさん入っていた。北軽井沢の家はおとぎ話の魔女の家のように小さいのに、庭はとても広い。私には手に余る広さで、前の持ち主のノンちゃんは草木がはびこるままにしていたからイングリッシュガーデンは実現できるかどうか。庭の写真を見せてこんなところですと言ったら、結構理想的な環境ではないかと彼女はいう。花郷園の美しい社長が張り切って選んでくれた株はすごく健康で茎がしっかりしている。
植物を飼うのは初めてなので北軽井沢に移植するまでに枯らしてしまうのではないかと心配だったけれど、とんでもない。全てピンシャンと天に向かって伸びている。しっかりした茎がたくさんの花を支えている。どうやら直射日光は苦手らしい。ベランダで毎朝たっぷり日を浴びているもの、室内で網戸越しに朝日を4時間ほど浴びるもの、南側のベランダで日没まで必死で日光浴をしているものを比べると、室内網戸越しが一番お好きなようだ。南側ベランダが一番辛そうにしている。
時々場所を変えて観察するに段々彼らの性向がわかってきた。お日さまは少しで弱めでいい。お水は乾ききったらたっぷりと飲みたい。毎日でなく数日おきが良い。なんて手のかからないお花たち。
これを書いたら八代亜紀さんの・・・肴は炙った烏賊でいい・・・なんていう歌詞を思い出した。
私は植物の気持ちがわからないからこれから勉強していかないと。わけもわからずあじさいやダリアなど買ってきて植えては枯らしていた。今日から手に豆を作って畑を耕すのだ。しかし天気は悪そうで一日目は雨らしい。木・金曜日が晴れそうなのでそこで一気に。行けば美味しいおそばが食べたくなる。
ここ数ヶ月北軽井沢にはとんとご無沙汰だった。美味しいおそばが食べられなく飢餓状態になって自宅付近の蕎麦屋に入ってがっかりした。蕎麦はまだしも蕎麦つゆが真っ黒でしょっぱくて半分も食べられなかった。信州で食べるお蕎麦とは大違い。都心で食べる美味しいお蕎麦は味が良くても高価で少量、ざる蕎麦は食べてもお腹が空く。いっそのことザルまで食べたくなる。
ざる蕎麦を生まれて初めて食べたとき、まだ子供だった私はなんて不味いのかと驚いた。こんなものをどうして大人たちは美味しそうに食べるのかしら。
音大に入って校舎の前に日本そばやさんがあった。私はどうしてもほしい弓があって、その頃は少しずつスタジオの仕事などもやっていたので自分で買おうと思った。昼ご飯は一番安いもりそば。来る日も来る日も、もりそばを食べていて
食べていたらその後はもりそばが好きになった。特に野尻湖周辺の山の中で食べたそばがきなども美味しかった。そして最近時々行くのは御代田にある地粉やさんという蕎麦屋。最初の頃は何回行っても地粉やさんのおそばにありつけなかった。あっという間に売り切れてしまうか定休日だったりして。
できれば月曜日に北軽井沢に行きたいのだけれど、野良はたぶん旅慣れていないから彼女のご機嫌次第。こちらはラッシュに走るのは嫌だからできれば早朝か昼過ぎに出たい。そのときに家にいてくれればいいけれどいないときには時間がずれてしまうと困る。なぜそれほどまでに猫ごときに気を使うかというと、ひたすら猫に嫌われたくないという弱みがあるので。
月曜日には私の気持ちを察して野良は非常に神経質になっていた。私もイマイチ出かける気持ちにゆるぎがある。二匹の猫を積み込んで大量のクリスマスローズに囲まれて運転することに怖気付いている。とにかく植物はどちらかというと苦手で。今回ばかりは車の小ささが不便に思える。
私が出発を諦めたかのように思えるまで呑気そうな顔を装って、猫に本心を悟られてはいけない。ここが犬の飼い主さんとの違いなのだ。ワンちゃんの飼い主は犬に言うことを聞かせるのにためらわない。しかし猫の飼い主はあくまでも猫の機嫌取り。卑屈になってしまう。宇宙で一番えらいのは猫であって、飼い主はしもべでしかない。
その日は夜になってやっと野良の疑いは晴れたらしく、夜の出発はこちらもありがたくないから翌日に延期となった。
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