台風が過ぎて明るい日が続いた北軽井沢に行った。森の家に到着してIH調理器の電源を入れた。点かない、電源が入らない。苦手な取説を引き出して説明を読むが原因がわからない。この調理器はつい最近新品に取り替えたばかり。前回この家に来たときに使っただけで故障するには早すぎる。まさか故障なんてありえない。キッチンの戸棚を探すと予備のヒーターが出てきたのでとりあえずそれで調理をした。
電気屋さんに電話をするとすぐに来てくれるという。現れた電気屋さんは暗い顔をして言った。もしかしたら雷にやられたかもしれないと。ここ数日激しい雷が続いて軒並みテレビなどの電化製品が故障しているという。だって、このヒーターはまだ数回しか使っていないのよ・・・私は涙声になる。電気屋さんがあまりにも気の毒そうな声を出すのでそれ以上のぐちは言えなくなった。とにかくこの数日この辺りの雷と言ったら今まで経験したことのないような激しさだったという。このコンセントを抜いておけば大丈夫だったんですがねと。そんなこと知らなかった。
明日から私達の合宿なのに、くいしんぼがこの家にやってくるのにどうしよう。でも予備のヒーターがあって本当に良かった。前のこの家の持ち主のノンちゃんが置いていってくれたものだった。ノンちゃん、本当にありがとう。
姥桜五人組、北軽井沢集合。姥桜とは年増になってもなお色香を失わない女性を指す言葉。だがこの五人は果たして年増の範囲に入るのかどうか。年増とは広辞苑によれば娘盛りを過ぎてやや年をとった女性とある。この「やや」が曲者。私達は「ややややややや」くらいの年齢ではあるけれど元気で華やかではある・・・と、思い込んでいる。
コントラバスのHさんはピアノのMさんと仲良し。この二人がアンサンブルをするとなると、ピアノとコンバスが編成にはいっていないといけない。それでよく弾くのはシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」でその曲と同じ編成ならオーケーなわけで、Hさんはその編成の曲を色々探し出してくる。今までゲッツという人が作曲した五重奏も曲りなりに本番にかけたし今回はボーン・ウイリアムズの五重奏曲をなんとか本番にかけようということになった。
毎年北軽井沢ミュージックホールで開かれる夏のフェスティヴァルは中止だというので、自主的にコンサート、それもミニコンサートをnekotamaの自宅で開こうという目論見となった。nekotama家のレッスン室は5人の演奏者が入っただけで満杯となるほどの狭小住宅なので果たしてお客さんに来ていただくことができるかどうか。狭いからグランドピアノを外に出すというわけにもいかない。なんたってピアノは主役なんだから。
それで夏の北軽井沢の集まりは練習に使い、11月頃を目処に本番に持ち込むという作戦、夏は避暑かたがた合宿という名のお遊びとなった。最も忙しいコンバスのHさんは昼の本番を終えて合宿初日に間に合うように車を飛ばして前夜到着、ヴィオラのKさんの追分の家に宿泊、翌日新幹線で来るチェロのKさんを駅で拾って練習所の北軽井沢ミュージックホール集合ということになった。
途中電話をしてきたHさんの声は疲労が滲んでいた。少し心配ではあったけれど、体力・気力とも並ではないHさんのことだから翌朝はスッキリと明るい声と顔が戻っていた。これで世の中ではとっくに後期高齢者と呼ばれる歳なのだから恐れ入る。
ボーン・ウイリアムズの曲はちょっと目にはそれほど難しいと思えなかったのに、深入りするにつれ問題続出。一人ひとりのリズム感が少しでもずれるとお手上げとなる。キッチリ合わせておかないと本番で行方不明者続出となりかねない。私はこの曲を少し甘く見ていたことでしっかりとしっぺ返しをされた。そうなると燃えてくるのが私のへそ曲がりな性格で、やっとやる気が出てきた。今年の異常な暑さで怠け癖が身についていたので、これは良い薬となった。
練習は朝から5時まで続き、あまり良い成果はでなかったものの、やっと皆の負けん気に火がついたようだ。こうなればしめたもの。合宿をやった甲斐があったというもの。夜は近所の食堂で食事をして解散。翌日はKさんが強力に推奨する蕎麦の店、地粉やさんで昼食をとってお開きとなった。
今年に入ってからどうやら金運が巡って来たと思っていた。メガネのレンズを替えたときにくじを引いたら大当たり、全部ただになった。先日人を紹介したら思いもかけず紹介料を頂いた。クッキングヒーターはすべて値上げされていたけれど、その中で唯一前の料金で買えるものが残っていたのでと、備え付けてくれた電気屋さんも嬉しそうに言っていたし。その電気屋さんが今度は心底気の毒そうな声で言ったのが雷では保証も使えないんですと。保証期間ではあるけれど、これは災害なのでせめて火災保険を家財にかけていれば良かったのにと。
あまりに気の毒そうに言うので恐縮してしまった。元々私に金運はないので結局勝ち負け無しでちょうどいいのだ。少し損のほうが大きいけれど仕方がない。金運はないけれど可もなく不可もなしの人生だし欲張るとろくなことはないからいいのいいの。金運のかわりに健康で人並みの生活ができて猫も今のところ元気。
以前郵便局の年賀状のくじに当たって毛ガニをゲットしたことがあった。今年は縁起が良いと喜んだけれど、その後スキー場で転んだら顔の上を人が滑っていったし、駐車場で車こすったりろくなことがなかった。「うっかりくじなんかに当たるものではない」というのが私の座右の銘。
唯一良かったのは、その雷がうちのヒーターを襲ったときに家にいなかったということ。ものすごい音や光がしたと思うし、たぶんその後停電で真っ暗に。そんな中で私一人で震え上がったに違いない。相棒の猫は泣きわめくだけで役立たず。でも最近真っ暗な森もあまり怖くはなくなってきた。猫を探してさまよったときに、あまり怖さを感じなかったのが役に立っているかも。