2023年8月29日火曜日

運不運

台風が過ぎて明るい日が続いた北軽井沢に行った。森の家に到着してIH調理器の電源を入れた。点かない、電源が入らない。苦手な取説を引き出して説明を読むが原因がわからない。この調理器はつい最近新品に取り替えたばかり。前回この家に来たときに使っただけで故障するには早すぎる。まさか故障なんてありえない。キッチンの戸棚を探すと予備のヒーターが出てきたのでとりあえずそれで調理をした。

電気屋さんに電話をするとすぐに来てくれるという。現れた電気屋さんは暗い顔をして言った。もしかしたら雷にやられたかもしれないと。ここ数日激しい雷が続いて軒並みテレビなどの電化製品が故障しているという。だって、このヒーターはまだ数回しか使っていないのよ・・・私は涙声になる。電気屋さんがあまりにも気の毒そうな声を出すのでそれ以上のぐちは言えなくなった。とにかくこの数日この辺りの雷と言ったら今まで経験したことのないような激しさだったという。このコンセントを抜いておけば大丈夫だったんですがねと。そんなこと知らなかった。

明日から私達の合宿なのに、くいしんぼがこの家にやってくるのにどうしよう。でも予備のヒーターがあって本当に良かった。前のこの家の持ち主のノンちゃんが置いていってくれたものだった。ノンちゃん、本当にありがとう。

 姥桜五人組、北軽井沢集合。姥桜とは年増になってもなお色香を失わない女性を指す言葉。だがこの五人は果たして年増の範囲に入るのかどうか。年増とは広辞苑によれば娘盛りを過ぎてやや年をとった女性とある。この「やや」が曲者。私達は「ややややややや」くらいの年齢ではあるけれど元気で華やかではある・・・と、思い込んでいる。

コントラバスのHさんはピアノのMさんと仲良し。この二人がアンサンブルをするとなると、ピアノとコンバスが編成にはいっていないといけない。それでよく弾くのはシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」でその曲と同じ編成ならオーケーなわけで、Hさんはその編成の曲を色々探し出してくる。今までゲッツという人が作曲した五重奏も曲りなりに本番にかけたし今回はボーン・ウイリアムズの五重奏曲をなんとか本番にかけようということになった。

毎年北軽井沢ミュージックホールで開かれる夏のフェスティヴァルは中止だというので、自主的にコンサート、それもミニコンサートをnekotamaの自宅で開こうという目論見となった。nekotama家のレッスン室は5人の演奏者が入っただけで満杯となるほどの狭小住宅なので果たしてお客さんに来ていただくことができるかどうか。狭いからグランドピアノを外に出すというわけにもいかない。なんたってピアノは主役なんだから。

それで夏の北軽井沢の集まりは練習に使い、11月頃を目処に本番に持ち込むという作戦、夏は避暑かたがた合宿という名のお遊びとなった。最も忙しいコンバスのHさんは昼の本番を終えて合宿初日に間に合うように車を飛ばして前夜到着、ヴィオラのKさんの追分の家に宿泊、翌日新幹線で来るチェロのKさんを駅で拾って練習所の北軽井沢ミュージックホール集合ということになった。

途中電話をしてきたHさんの声は疲労が滲んでいた。少し心配ではあったけれど、体力・気力とも並ではないHさんのことだから翌朝はスッキリと明るい声と顔が戻っていた。これで世の中ではとっくに後期高齢者と呼ばれる歳なのだから恐れ入る。

ボーン・ウイリアムズの曲はちょっと目にはそれほど難しいと思えなかったのに、深入りするにつれ問題続出。一人ひとりのリズム感が少しでもずれるとお手上げとなる。キッチリ合わせておかないと本番で行方不明者続出となりかねない。私はこの曲を少し甘く見ていたことでしっかりとしっぺ返しをされた。そうなると燃えてくるのが私のへそ曲がりな性格で、やっとやる気が出てきた。今年の異常な暑さで怠け癖が身についていたので、これは良い薬となった。

練習は朝から5時まで続き、あまり良い成果はでなかったものの、やっと皆の負けん気に火がついたようだ。こうなればしめたもの。合宿をやった甲斐があったというもの。夜は近所の食堂で食事をして解散。翌日はKさんが強力に推奨する蕎麦の店、地粉やさんで昼食をとってお開きとなった。

今年に入ってからどうやら金運が巡って来たと思っていた。メガネのレンズを替えたときにくじを引いたら大当たり、全部ただになった。先日人を紹介したら思いもかけず紹介料を頂いた。クッキングヒーターはすべて値上げされていたけれど、その中で唯一前の料金で買えるものが残っていたのでと、備え付けてくれた電気屋さんも嬉しそうに言っていたし。その電気屋さんが今度は心底気の毒そうな声で言ったのが雷では保証も使えないんですと。保証期間ではあるけれど、これは災害なのでせめて火災保険を家財にかけていれば良かったのにと。

あまりに気の毒そうに言うので恐縮してしまった。元々私に金運はないので結局勝ち負け無しでちょうどいいのだ。少し損のほうが大きいけれど仕方がない。金運はないけれど可もなく不可もなしの人生だし欲張るとろくなことはないからいいのいいの。金運のかわりに健康で人並みの生活ができて猫も今のところ元気。

以前郵便局の年賀状のくじに当たって毛ガニをゲットしたことがあった。今年は縁起が良いと喜んだけれど、その後スキー場で転んだら顔の上を人が滑っていったし、駐車場で車こすったりろくなことがなかった。「うっかりくじなんかに当たるものではない」というのが私の座右の銘。

唯一良かったのは、その雷がうちのヒーターを襲ったときに家にいなかったということ。ものすごい音や光がしたと思うし、たぶんその後停電で真っ暗に。そんな中で私一人で震え上がったに違いない。相棒の猫は泣きわめくだけで役立たず。でも最近真っ暗な森もあまり怖くはなくなってきた。猫を探してさまよったときに、あまり怖さを感じなかったのが役に立っているかも。























2023年8月18日金曜日

荒れ狂う地球

6号台風が日本列島に居座っており次の7号台風が出番待ちというころ、姪Nとその娘Rと一緒に北軽井沢に行く予定だった。しかし台風は日本列島を離れず何回も強い風雨で西日本や沖縄を苦しめた。私達が行く北軽井沢は群馬県なので暴風圏を少しズレていたけれど、それでも台風の東側には強い風が吹くと言われるから覚悟してでかけた。

出発日の早朝、関東地方は雨風もほとんど影響がなく曇り空ながら無事に現地到着、時々雨がぱらつくけれど森の中は穏やかで木々の緑が心を癒やしてくれる。いつものようにここは平穏で空気が美味しい。

3世代の欲求を満たすのはどこを標準にするかというと、やはり若者である姪の娘Rにと思ったけれど、私がそのパワーについて行けるかどうかわからないから独断で物事を進めることにした。姪のNは物静かであまり口をきかないけれど、意志の強さで周りに影響を与える。娘のRは頭の回転が早く知識で周りに影響を与える。私は思いつきで動くから即決即断だけど時々素っ頓狂。面白いトリオになった。

早朝出発したので軽井沢のインターを出たのは9時過ぎ、通り道のカフェ「春木」に寄って朝食を摂ることにした。ここは元群馬交響楽団のコントラバス奏者の経営するお店で、私が北軽井沢に通うようになった10年ほど前から気になっていた。なんだかコンバスのようなものが看板になっているあそこはなんだろう、前を通るたびによってみようとは思っていたけれど、あるときやっと寄る機会があって店主の顔を見ると見覚えがあった。私がオーケストラで弾いていた頃、よくエキストラで来てくれた人だった。音楽の世界は限られた世界だから、いたるところに知り合いがいる。

山小屋到着と同時に私はキャベツを刻み始めた。頭の中ではもう食事計画が出来上がっていて、手はじめがキャベツの千切り。連れの二人は驚いていた。なにをしはじめたのかわからないらしい。もちろんわからないさ、冷蔵庫の中身、持ってきた食材と合わせて一番経済的になる食事を考えているのだから、他人にはわかるわけがない。なにかお手伝いをと言われても指示するより自分でやったほうが早いからベッドの支度をしてもらった。

半月くらいこないと寝具はやや湿気を含むからさっそく布団乾燥機の出番となる。私は家を閉めるときに寝具をすっかり変えて布団乾燥機をセットして帰る。だから次の時に家に到着したときには乾燥機のスイッチを入れることが最初の仕事となる。乾燥機は2台、電気敷き毛布が4枚、エアコンのドライを合わせると乾燥機だらけ。普通の環境なら必要ないけれど、森の中は湿気が多いしヴァイオリンがあるから小さな部屋に強力な乾燥機を入れてある。だから乾燥室に前日着たものを洗濯して干しておくと、次の朝にはカランカランに乾いてくれる。

到着した日は皆疲れているし雨模様だから家のお風呂に入ってもらって休んだ。NとRには庭仕事をやってもらおうと手ぐすね引いていたのに雨で目論見が外れ、ダラダラと食べたり飲んだり、Rにヴァイオリンを教えたり、穏やかな一日を過ごした。Rは母親のピアノ伴奏で初心者の曲が弾けて至極満悦の模様。次の日はもし7号台風が直撃なら猛烈な勢力で通過する予定だったけれど、その夜は静かに過ぎていった。・・・と、思ったけれど現実は凄まじかったようだ。

早朝目が覚めていつものように窓やドアを開け放すと、驚いたことに庭の枯れ木が倒れていた。この木は以前枯れ木を切ってもらったとき、お隣との境界線上にあってトラブるといけないからはっきり境界線が決まったら切りますと言われ、立ち枯れになっていたものだった。その木は建物の3階くらいの高さで硬いから切るのは大変だといわれていたもの。その木が5箇所くらい引きちぎれて車の停めてあるところスレスレにバラバラに吹っ飛んでいた。どれほどの風が吹いたのか想像もできないけれど、3人と猫が全く気づかずにいたのは驚きだった。小さくてミノムシのような木肌の小屋は、思ったよりずっと堅牢だったようだ。

朝食はウッドデッキで、ランチは今まで気になっていたけれど入る機会がなかったカフェで。土砂降りの雨の中車からお店に行くまでもずぶ濡れになりそうな。夕方近所の温泉に行ってからお気に入りのハコニワ食堂で晩ごはん。小さいながらご主人の手抜きをしない調理で常に味が変わらない評判の良い食堂は私が最も推薦する店。連れて行った人たちがいつでも喜んでくれる。

Rは仕事の都合で次の日に帰宅することに。Nはもう一晩泊まるという。Rにどこか行きたいところは?と訊いたら群馬県と長野県の県境の渋峠にあるロッジに行きたいという。そこに大きなセントバーナードがいると私が言ったので興味津々らしい。私も大型犬がまだ健在かどうか知りたいと思ったので曇天の山道を走った。草津から山に向かうと酷く霧が発生し始めた。山頂につく頃には数メートル目の前の道路の白線しか見えない。しかし怖いけれど面白がる自分がいる。それが一番怖いところなんだけど。最終的には向かい側から来る車のボデイすら見えなくなって諦めて引き返すことにした。時間にしてあと数分くらいのところだったが、自分だけでなく将来ある身内を巻き込んではいけないと思ったので。

下山すれば霧が晴れて草津温泉スキー場がある。そこで気分良く過ごして帰宅後Rにヴァイオリンのお稽古。ざわざわした日だったので集中力にかけてレッスンはあまりうまくいかなかったけれど軽井沢の駅からRは新幹線に乗って無事に帰っていった。姪と二人、日頃無口なNもその夜はよく話をしてくれた。せっかく北軽井沢に来ても浅間山はまだ姿を表さず、分厚い雲の中。翌朝も見えず。

テレビのない北軽井沢から戻ってテレビを見たらハワイのマウイ島やカナダの山火事のニュースで持ちきりだった。海では様々な海中生物に異変が起こっているという。氷山は溶けて崩れ落ちる。いるはずのない魚がとんでもないところで繁殖していたりするという。マウイ島の火事の原因は外来植物の枯れ葉に強風で切れた送電線が接触したことだとか。地球がいまや早急な温暖化防止を迫られている。トランプさん、これでもまだ温暖化防止に反対ですか?お金持ちは火星にさっさと移住できるけれど、私達庶民はどうすればいいのか、将来の子どもたちが本当に心配でならない。









2023年8月5日土曜日

走れる!

 去年、一昨年、足の故障に悩まされもうこの先スキーもランニングもできないかと諦めの境地、とても悲しかった。けれど最近この猛暑で体が温かいせいか足の痛みは殆どなくなった。階段もまっすぐに縦に降りられる。まだ縦の姿勢は最近やっとできるようになったのでおぼつかない足取りながら、ここ2年間の状態から見れば大した進歩なのだ。

できることはなんでもやってみた。整体、高周波治療、筋トレ、ストレッチ、毎日の散歩等々。最後にたどり着いたのは貧乏ゆすり。老化からの体の故障のなんと多いことかと痛感。諦めるのが一番手っ取り早いけれど、それは自分にも周りにも大変な迷惑だからなんとかしようと色々考えた。最初はやりすぎる。早く効果を得ようと頑張りすぎてかえって逆効果だったり。とかく私達は毎日数時間の楽器の練習をずっと続けるのが当たり前だったから、なにか始めたら根性がものを言って頑張ってしまう。これが一番いけないと気がついたのがごく最近だった。

例えば朝の散歩、まだ疲れていないから楽に歩ける。毎日近所の公園をぐるっとひと回りして来るのだけれど、コンディションによってはショートカットしたほうが良い時もある。わかっているのにもう少し頑張ろうと言う気になって歩いてしまう。筋トレもすべて同じ。ほんの数分ずつ軽い運動が一番いいのについ自分を甘やかすなという根性が頭をもたげてくる。それでやっと良くなった膝痛が悪化することがしばしば続いた。それをやっと抑えることができるようになった。それでもまだ時々やりすぎて、しまった!と思う。

今朝の散歩はいつもより少し距離が多かった。外で待ち構えている野良猫が散歩についてきたがるので彼らをまくのが大変なのだ。気が付かないで歩いているとすれ違う人たちが笑う。なんだろうと思って後ろを見ると猫が二匹尻尾を立ててついてくる。猫の足音は聞こえないから。それで私は家に入るふりをして車の陰にまわって他の道から出ることがある。猫のいる場所を大回りしないと道路に出られないこともあって、今日は一区画分遠くなったというわけで。

ゆっくりと歩く。私の性格からするとゆっくり歩くほうが難しい。公園に着いて木陰に入るとひんやりと気持ちが良いので、わずかにランニングをしてみた。最近少し走れるかもと思ったのは、信号の変わり目で急ぎ足ができるようになったことから。ある時無意識に小走りしている自分に気がついた。おや、もしかしたら走れるかも。今朝は軽くランニングの姿勢をとって走ってみたら、本当に走れそう。まだゆっくりだけれどかなりの距離を小走りができた。両足が地面から離れる感覚が新鮮で心がおどる。あまり図に乗るとまた足を痛めるかもしれないので途中でやめたけれど、回復の確かな手応え。さてランニングシューズを買わねばとまた靴フェチが。危ない危ない!

最近見たテレビで90歳を超える男性がトライアスロンに励んでいる映像を見た。それも普通のトライアスロン大会に比べて超ハードなものらしい。その大会で彼は年齢別で連続優勝している。なぜならばそのクラスでの参加者は彼一人だけだったからという。参加することだけでも驚異的な存在らしい。そこまでできる人は体力、気力ともに生まれつきに備わっているのかもしれない。私ごときが彼が頑張っているから自分も頑張ればできると思うのは大間違い、人にはそれぞれ分をわきまえることが必要。

ところで連日の大谷翔平くんの頑張りはもはや人間離れ。肉離れではないけれど足がつるというから彼も人の子だと妙なところで感心しているけれど、少し心配。いつもたくさん寝ると言うけれど、それができないときはどうするのだろうか。私は最近眠る時間が多くなったけれど、やはり5時間以上は眠れない。眠るにはエネルギーが必要なのだ。大谷くんがもし眠れなくなったらと思うとゾッとする。いやいや、不吉なことを考えるのはよそう。でも、あまりにも世界記録を塗り替えすぎてもう彼がホームランを打っても当たり前、奪三振が何人もいても当たり前となったら、なんか一人で大車輪で走り回って気の毒な気がする。

かれは弱体のチームにとっては救世主。彼の美学はそんなチームを見捨てずに自分が頑張って救いたいと思っているのだろう。でもだんだん顔つきがなにかを我慢している感じに変わってきているのが気になっている。