2021年2月11日木曜日

徳永兼一郎 最期のコンサート


ああ、またみつけてしまった。この映像は以前見て涙が止まらなかった。徳永兼一郎さんは誰に聞いても本当にいい人だという答えが帰ってくる。純粋で優しいお人柄が皆に愛されていた。私の知り合いのN響のもとメンバーは「大徳さん大好き」といつも言っていた。

ダイトクさんというのはヴァイオリンの徳永次男さんのお兄さんという意味だと思うけれど、德が大きいという意味にも思える。NHKの駐車場で次男さんとばったり出くわしたことがあった。私は仕事を終えて帰るところだった。「こんなに遅くからお仕事?」というと「これからラジオの放送があるから聞いてよ」と言う。車のラジオを点けて聞きながら帰宅した。いろいろなオーケストラの話題の中でもお兄さんのダイトクさんの話が一番多かった。彼がいかに無邪気で面白いかということを次男さんは楽しそうに喋っていた。
本番の最中に弓を飛ばしてしまって、ステージの床を這って取りに行く姿がおかしくてと笑いながら話す。男兄弟の関係はときには複雑になることが多いけれど、彼らは本当に仲が良かったと思う。

それともうひとり弦楽器製作者の佐藤さん、渋谷の彼の楽器工房に時々弦を買いに行くことがあった。彼が難病で命が危ないということは知っていたけれど、まさか私の楽器を調整してすぐに亡くなってしまうとは思っても見なかった。彼の最後の言葉は「この楽器はとてもいい楽器ですよ。大切にしてください」
その佐藤さんが、大徳さんが最後に弾いた楽器を作っていたということをこの動画で知った。

佐藤さんがした私の楽器の最後の調整は見事だった。後にも先にもあんないい音がしたことはない。今でもあの音を思い出す。
ある時渋谷でビールを飲んでいたら彼がへべれけで通りかかった。私の友人と二次会に出かけるときの嬉しそうな笑顔。それが動画で悲しみの涙を流している姿と重なってしまった。涙がとまらない。

音楽は人、つくづく思う。最後の演奏のすべて解き放たれたような純粋さ。命の極みにあってもあれ程の高貴な音楽ができる人は稀だと思う。





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