ノンちゃんの最愛の旦那様、絵本作家の田畑精一さんを偲ぶ展示会が開かれているとご案内を頂いた。田畑さんの代表作は「おしいれのぼうけん」「ぴかぴか」「さっちゃんのまほうのて」など。
またしてもコロナ感染者が増え始めているのでいささか恐怖ではあるけれど、力強い我が仲間のコントラバス奏者のHさんとそのお嬢さんのYちゃんが行くというので、二人の陰に隠れるようにしていればウイルスにはとりつかれないだろうという非常に非科学的な 考えで行くことにした。池袋の会場に行く前にベトナムのフォーを食べていこうというからさっそく便乗することにした。なんでも大変評判の行列のできるお店らしい。お店が混んでいないといいけれど・・・
B1にあるお店は混んでいた。私達が食べ終えて店を出ようとすると階段の上まで行列ができていて外に出るのに一苦労。でもフォーはたいそう美味しかった。メニューは牛肉のフォーしかなくトッピングが選べるようになっている。卵やパクチーなど。もちろんパクチーは必須だけれど、随分あとまでマスクの中がパクチー臭くて参った。お腹を拵えてから行かないと途中で無気力になってしまうので、この順番は非常に良い選択だった。
池袋はもはやコロナの警戒の気配もない。人の波。隣の席でフォーを食べていた中国語を話す女性が大声で絶え間なく話しているのが怖い。でもワクチン2回めも終わったことだし、以前よりは多少安全かもしれない。
会場は丸善に隣接した道草というギャラリー。ゆったりとした空間の正面に田畑さんの大きな写真が飾られている。見れば見るほどハンサムで、いつも上等なものを好むノンちゃんの審美眼の正しさに脱帽する。気骨のある性格と京都大学の理学部という頭脳とこのお顔では、ノンちゃんが惚れ抜くのは当然のこと。ノンちゃんは夏はほとんど北軽井沢で過ごしていた。精一さんは都内でお仕事。時々北軽井沢の家に精一さんが見える日は、朝からワクワクと乙女のように待ち受けるノンちゃんは本当に可愛かった。
田畑さんの絵本は知っていたけれど、原画を見るのは二回目。絵本になってしまうと印刷の関係で色目が少し違って見える。けれど原画の色のなんと鮮やかなことか。精密な絵筆のあとを辿っていると、スーッと引き込まれそうになるくらいの奥行きを感じる。本当にうまかったのだと改めて感じさせられた。妥協しない性格がありありと見て取れる。息を呑むほどの美しさ。戦争を体験したことで、二度とあのような悲惨なことにならない世界を子どもたちに示したいとの思いから絵本作家になったという。単にかわいい子供向けの絵本とはすこし違う。私達すごい人とお付き合いしてたのねとHさんが言う。ほんとね、いつもスキー宿で飲んでる姿しか知らなかったものねと私。
雪雀連とはそういうグループなのだ。だれもが自分の自慢話をしない。だから彼らがどんなにすごい人達か数年を経てやっと知ることになったりする。黙々と細かい作業を積み重ねていく人たち、好きだなあ、こういう人たち。
昨夜メンバーの一人から電話があって、田畑さんの絵見てきたよ。彼はあんなにいい男だったんだねと。男性の目から見ても文句なしの美男子。そしてもう一人、先日人形作家の岡本喜八さんとアニメーショウと題して国立映画アーカイブで展示会が開かれた故岡本忠成さんのことに言及、岡本さんもすごくいい男だったんだね、あんないい顔しているのに気がつかなかったよとも言う。少し前に岡本さんのドキュメンタリーをNHKで放送した。それを見て私もそう思った。二人共なんといういいお顔なんだろう。スキー場で呑んだくれたり麻雀やっていたりするのしか知らないので、改めてお二人の仕事の素晴らしさを見せられた。
岡本さんの展示会で作業場の動画を見たら一瞬ノンちゃんが出てきた。いつものゆったりと微笑んでいる彼女とは全く違うプロの表情を見て、思わず涙ぐんでしまった。今日会場で田畑さんの近日発売のエッセイを買ってきた。次に北軽井沢に行くときに持っていって、庭の大木の下で眠っているノンちゃんに読んであげようと思っている。