2022年2月6日日曜日

快調

コロナワクチン接種翌日、思い切りサボったおかげで 夜には腕の痛みが収まり、痛みが消えると同時にいつもより1度高かった熱はいつもの平熱へ。たった1度なのにと言うなかれ、その1度が体調を左右し心配事になるのがコロナ禍下の生活。私の人生の中でこんなことは初めてで、そういう意味では珍しい体験をさせてもらった。今年もまたスキーはほとんどできずに終わってしまいそう。どこかで天候が良ければ北軽井沢の家を開けてもらって近所のスキー場に行ってみたい。

寄り集まるなと言われている昨今あまり大声では言えないけれど、最近カルテットを結成。第一回目の練習はまだオミクロンの脅威が少ない頃だったから安心していたら、最近メラメラと感染拡大。次回どうするかが問題なのだ。

お声がかかったのは去年の暮、参加してもらえないかとの打診があってアンサンブルは三度の飯より好きだから快諾したけれど、さ~て、指が動くのかどうか心もとない。それでも長年かけて力まない奏法を身につけてきたから疲れはしない。けれどどうにもならないのが音程。手の指が曲がってきているので微妙に狂うことがある。なまじまだ耳がしっかり聞こえるので辛い。

これで耳が悪くなったら天国。昔ある御高齢のヴァイオリンの先生のお付き合いでカルテットのセカンドヴァイオリンを弾いていたことがあった。その方は某音大で教鞭を執られていたけれど、退任なさってからカルテットを弾きたいと一念発起。その時御年70歳。私の仲間たちはずっと演奏を続けてきたから未だ問題はないけれど、長年先生稼業をして演奏していなかった人にはもう無理な年齢。それでも情熱とお金と人脈に不自由なく、しかも彼女のお弟子さんたちがサポートするので一生懸命練習を重ねた。演奏会は華々しく、お客様は超満員。人脈も豊富で、ある高名な音楽批評家がお友達。その方がびっくりするようなご祝儀批評を書いてくださったので、ご本人はいよいよ舞い上がってしまった。多分演奏会のたびに多額の批評御礼が贈られているのだろう。世の中に批評家ほど罪な商売はない。

こんなときに思い出すのはアメリカ人のジェンキンスという女性。大富豪の奥様でカーネギーホールを借り切って全部招待客。ソプラノ歌手として何回もコンサートを開いた。声はまあまあで高音も出る。でもその音程の外れ方は宇宙的で、ほとんどあっていることがない。悪いけれど、そのジェンキンスさんを彷彿とするほどの音程の外れっぷり。高齢の方が心を込めて一生懸命努力している姿には心を打たれるものがないとは言えないけれど。

人格はひたむきで情熱的で素晴らしいのでたいそうお友達が多い。みなさんが褒めそやすのでますます練習に励む。時々あまりの音程の悪さに私が注意するとピアノのところへ行ってその音を叩く。「違ってないわよ、ほら」ご本人がおっしゃるなら違っていないのでしょう。要するに大半の人生を生徒に注意するだけでご自分は注意されたことがない。自分の音を聞かないで過ごせた幸運な人なのだ。

数回で私はギブアップした。なんだか自分があっているのか先生があっているのか、はたまたピノの音程が悪いのか、何を基準にすればいいのか。今その方を超える年齢になって自分の音程を聞くと、単音ならまあまあ、しかし重音はいただけない。要するに指はまっすぐでないと重音を弾いたときに合わないのだ。つい最近まで弾いていたベートーヴェンのクロイツェルソナタ。冒頭部分はヴァイオリンのソロ、最初の音がAEC#Aの和音、このC#Aが薬指が曲がってしまったためにどうしても隙間があいてしまう。本来は寄っていないといけないのに離れてしまう。もうそこでこの曲は絶望的に。単音なら指使いを変えて弾けるからいい。なんとか誤魔化せば普通の耳の人ならそれらしく聴こえるかもしれない。でもいつも私達の演奏を聴いてくださっているプロや音楽好きの耳の肥えた人たちに通用するとは思えない。

他の曲ならまだしも、この曲が弾けなくなったらもはやプロとしての生命は半減したも同然。老後の楽しみとしてカルテットを弾いていくことに。本当に皆演奏するのが楽しくて仕方がないという。今までときに練習が大変なときも、スランプもあったし何回練習してもうまくいかないときもあったけれど幸せだったなあと振り返る。私は今までほとんど後ろを振り返ったことがなかったけれど、最近しばしば思い出に浸るようになった。それは今や現場にいないということなのだと思う。コロナでやりたいことができないせいでもある。

前述の先生も晩年をいかに充実できたことか。私も口やかましく音程なんて言わないで褒めてあげればよかったと思うし、また、それでは先生にかえって失礼だと思う気持ちもある。音程が直りはしなかったけれど、真剣に向き合ってよかったとも思う。人間関係は難しい。

本当のことを言えば、カルテットというのはアンサンブルの中でも最高に難しい。地味な努力を何回も重ねないといけない。合うまで徹底的に音を重ねる努力がいるけれど、そのうちに真剣になりすぎて仲間割れなんてことも今までたくさんの例を見てきた。そうならないようにある程度目でなく耳をつぶってもらって他のメンバーに我慢してもらわないと。このカルテットの平均年齢!驚くなかれ・・むにゃむにゃ・・いくつでしたかねえ?












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