藤原さんは音大の先輩。
気難しく取り扱い注意人物だけれど、なかなかの理論派。
毎年8月14日には母校のあったくにたちで、卒業生によるコンサートが催されていた。しかしコロナ禍で、すでに3回も予定が流れてしまった。卒業生の中でもヴィオラのメンバーたちは面白い。ヴィオラ弾きは一種独特の雰囲気がある。一捻りした曲がった性格、それでいて暢気で世の中のことすべて我関せずといったボーッとしたところもある。私の性格にも共通点が多く、私はヴィオラという楽器がこの上なく好きでヴィオラ弾きの友人が多い。
オーケストラでコンマスが次席の人に注意事項を言うと、その人から後ろに次々と情報が伝わる仕組みになっている。次にセカンドヴァイオリンに、その次はヴィオラにと電話ゲームみたいに伝わる。伝わっているうちに話が変わっていかないところがオーケストラのメンバーの偉いところ。けれど、ヴィオラあたりで話が混沌としないかとヴァイオリンの輩共は注意深く見守っていた。ほら次はあの人、あの人で変わりそうだねとかなんとか言いながら。
ある楽章から次の楽章へと途切れなく続く、あるいは転調するところなどですぐに先に行くことを音楽用語でアタッカ(伊: attacca)という。そこはアタッカでと言われたら休まずすぐに先に行かないといけない。それが少しぼんやりした人がいると、皆の期待が膨らむ。あの人のところに伝わるとその先は「そんなのあったか」になるぞ、と。それは決してヴァイオリンでもチェロでもコントラバスでもなくヴィオラ弾きなのだ。
そうやってヴィオラ弾きはおおらかでのんきな性格とされているけれど、藤原さんはそういうところが殆どなかった。殆どというよりいつも口をへの字に曲げてとっつきにくい先輩。くにたちで毎年開かれる「くにたちの会」の打ち上げで恒例のヴィオラのメンバーによる即興演奏では率先して抱腹絶倒の演奏をする。これが楽しみで宴たけなわになると皆が一斉に叫ぶ。「即興演奏!」その時だけは藤原さんのへの字の唇の端しに薄ら笑いが浮かぶので、ああ、彼も面白いんだなと思う。
その藤原さんが本を出版しました。
春秋社「リズム」藤原義章著
藤原さんの音楽家としての集大成。様々な視点から数式まで交えての理論の展開。ちなみに表紙画もすべて彼の力作。
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