先日北軽井沢に行ったとき、私の相棒である老猫の異常な恐怖体験を目の当たりにした。
今回も 素晴らしい天気に恵まれて気分良く山荘に到着、先日都内のスーパーで買った素晴らしくきれいな紫陽花の株を3本持参して行ったので、到着するやいなや長靴に履き替えてせっせと庭仕事。最近はすっかり道具を使うのにも馴れて穴掘りも上手になった。やっと3本のあじさいを植え付け、アザレアも2本追加。だんだん花が増えて明るい庭になってきたのを外側から眺めて満足。数日後には天候が崩れて雨模様らしいので、水やりも助けられる。よしよし。疲れていたので早く寝たのに、夜中に猫がやけに騒ぐ。
翌朝目覚めるとすぐに庭へ。でも、ああ、何たることか、すばらしく美しく咲き誇っていたあじさいが見る影もなくしおれて花は茶色になって首をたれている。葉っぱもだらんと垂れ下がり息も絶え絶えの様子に言葉を失った。そういえば夜になってから気温がぐんと下がったので家中の暖房をつけたのを思い出した。
庭には暖房がないからそのまま新参者のあじさいは凍えてしまったのだ。だいたい自宅と山の家の気温の差も考えずに初夏の花のあじさいを直植えするなんて、気違い沙汰だった。植物になれていないと言ってもこのくらいのことも考えないなんて。バカバカ!
次の日追分の友人の家にいくと「なんでも失敗しながら学んでいくのよ」と慰められてしおしおと帰ってきた。私の得意分野は動物。植物はどうも気持ちがわからない。疲れと気落ちしたのとで寝込んでしまったけれど、少し眠ると猫がやかましく泣き叫ぶ。山の空気がいいから元気に鳴くなあなんて、これも見当違いの考え。猫は玄関の上がり框と室内の間にあるガラスの戸の内側から靴箱の方を向いて大声で叫んでいる。多分ガラス戸に映る自分の姿に向かって吠えているのだろうと思った。でもいつものことなのになんで今回こんなにうるさいのかしら。
今回もこの森の中の一軒家に一人ぼっち。周囲の家は見事なまでに真っ暗で外を見るのも怖いくらい誰も来ていない。多分大型連休が始まるとドッと人が押しかけてくるだろう。お隣さんも連休明けから来るつもりだと思うので窓から眺めても無人の家はうつろに見える。そして夜な夜な猫が泣き叫ぶ。日毎にヒステリー度がましてくる。ほとんど半狂乱の体だからほとほと困った。数日間我慢していたけれど、ある夜中に泣き喚かれたときに帰宅する決心をした。こんなに鳴くということは体の何処かが痛いのかもしれない。もしかしたら重大な病気かもしれない。もし治療するとしてもいつものかかりつけの病院なら猫も安心する。
実は北軽井沢の家の近くに有名な動物病院があって、近隣だけでなく様々な地方から患者が押しかけてくるらしい。でも治療が長引いたら自宅付近の病院がいい。そこでまだ大声が出るくらいの体力があるうちに帰宅しよう。たくさんトマトを頂いて自分の冷蔵庫にしまおうとしたら、先住者のトマトが10個くらいあった。いくら冷蔵庫とはいえ次に何日にこられるかどうかわからないからここにおいておくわけにいかない。それで丑三つ時、トマトを剥いては鍋に放り込みひき肉や玉ねぎと一緒に煮込んでトマトソースを作り小分けして冷凍する作業に没頭した。
荷造りは何でもかんでも車に放り込めばよし。ところで一体猫は何に怯えていたのか原因はなにか。ふと気がついたのは、玄関のスリッパを入れる棚の上に木彫りのふくろうがおいてあること。この家を作った工務店の社長の義理のお父さんの趣味の作品で、大きさはかなり大きめの猫くらい。私が表札がなくて誰か作ってくれないかしらと愚痴ったら、これはどうですかと持たせてくれた。表札にはあまり適当ではないので靴箱の上に置きっぱなしになっていた。それがちょうど猫が上から見下ろしているように、うちの猫には見えたらしい。
そのネコモドキふくろうを隠したら猫はピタリと鳴き止んだ。なーんだ、彼女の恐怖の体験はこれが原因だったのだ。なるほど、猫にしてはかなり大きな猫のようなものにじっと見下されて、猫はどれほど怯えていたことか。早く気が付いてあげないで悪かった。しかしその御蔭で夜な夜な叩き起こされた私の身もなってほしい。その後猫と私は寝不足を取り戻すために眠り続けた。
あんな大声が出せるなら我が家の婆さん猫は当分生きられそう。私のほうが先になったら皆さん彼女をよろしく。汚なくて気難しくてヨボヨボですが、あれでなかなか愛情深くかわいいのですよ。