2023年4月5日水曜日

浅間は活動期

 去年は色々あって楽しい予定はほとんどキャンセル、憂鬱な日々で自分を分析したら立派なうつ病だった。秋の日々は北軽井沢の最も美しい季節、それなのに野暮用ばかりで人間関係もぎくしゃく、せっかくの冬の楽しみもキャンセルばかり。ことしこそ冬の山小屋ぐらしを楽しもうと思っていたのに急ぎの用事ができて走り去るように森をあとにした。それから約4ヶ月、やっと数日の休日ができたのでさっそく森へでかけた。

去年はまだ家を閉める気がなかったのに急いでしめることになったので家の中は大荒れかと思ったけれど、案外きれいになっていたのでホッとした。こういう家は水抜きやなにか冬支度などで職人さんたちが留守宅に入るから、まずいものを見られてはいけないので緊張する。食器も全部きれいになっていたし、下着を干したりもなかったし、ほっと安堵のため息が出た。

日曜日の昼過ぎ、山道を登り始めると木々の周りにうっすらと烟る霧状の物体。今まで抜けるような晴天だったのにおかしいなともう少し登ると浅間山が見えてきて、その頂上に黒煙がちょうど帽子をかぶったように覆いかぶさっていた。最近浅間の噴火警戒レベルが2になったと聞いてはいたけれど、間近に見るとけっこう恐ろしい。それでもなお浅間山は高貴な佇まい。噴煙は私のいるちょうど裏側にあたる山頂付近から吹き出している。音もしない。ただ静かにもくもく煙を吐き出している。山肌は少し雪が溶けて流れたような跡が見える。山全体が熱いのだろうか。

別荘の管理事務所に明日から行きますと電話したら、管理人さんが微妙に声を揺らしていたのでおや?と思ったのはこのことだったのかしら。でも管理事務所に到着するといつもの明るい声で出迎えてくれた。浅間の噴火は大丈夫?と訊くと「大丈夫です。私達誰もしんぱいしていませんから」と。レベル3でもずっと暮らせましたからとも。管理事務所の隣りにあるピザのお店がオープンしていたので昼食にジェノベーゼのピッツアをいただく。このお店は開店当時はいささか?だったけれど、今はすごく美味しくなった。ここのご主人は雪と山に憧れて東京から移住、ピッツァのお店は週の後半だけ、他の曜日は木に関する仕事、木彫りとか伐採とかのしごとをしている。

私の家はまだ表札がない。元の持ち主のんちゃんの田畑さんのままになっているから彼に相談してみた。表札できる?できますよ、この辺の家はたくさんつくりました、というからお願いしておいたのにまだできない。あれ、何でしたっけ?もう数年経つのにできない。どうやらピッツァのついでに頼むと頭に入っていかないらしい。それほど集中しているから美味しいものがたべられるのかも。

猫は馴れたもので山荘に到着するとさっさと自分の寝床に入ってぐっすりと眠る。ここに来ると庭も歩くし鳴き声も静かで良い子になる。それでも夜中に大きな声を出すので目が覚めた。家が微妙に揺れている。床からかすかに振動を感じる。それまで感じなかったのに浅間が噴火しているのかしら?管理人さんとお話をしたとき「危険になったら知らせてね」と頼んでおいたけれどもう夜中だし連絡はつかないなあと頼りない思い。しかし本当に危険だったらこんなことでは済まないはずだから諦めて起きて、ヴァイオリンを弾く。

夜中の2時ころ、普通ならこんな森の中でも近隣に遠慮して弾くわけにはいかない。たとえ聞こえないとしても。しかし今回は本当にだれもいなかった。点在する家の数軒は常住している。常に車が停まっているからわかる。しかし今回は車すら森の出入り口近くの家にあるだけ。ヤッホー、森は私の思うがまま。大音量でプラシド・ドミンゴがアイーダを歌う。下手くそなヴァイオリンがきゃあきゃあと喚く。あら、また同じフレーズ?おや?また間違えた?森のおばけたち両手で耳を塞いでいる。ここぞとばかり夜中にヴァイオリンを弾く夢を叶えた。

朝は日の出から始まる。たっぷりとお日様を浴びて、長靴を履いて庭に出る。茫々に荒れ果てていた庭木を剪定すると、いままで日陰だったところが明るくなる。見違えるほど日当たりが良くなった庭にすみれを植える。やっと庭らしくなりましたよ、のんちゃん。でものんちゃんは喜んでいない。のんちゃんは手つかずの自然がお好みなのだ。一日中庭に出ていても飽きない。膝がガクガクになるまで歩いても不快ではない。こうやって楽しいことをしていれば体が喜ぶのだ。

いつもは人がいっぱいでめったに席がとれない食堂へ行くと、あらまびっくり、客がいない。訊けば今朝からだれも入ってこないという。でも私はラッキー、いつも一人だから遠慮して席を取らずに自宅に持ち帰って食べる。久しぶりにマスターとお話をしながらの昼食。「でもね、私は招き猫なのよ。一人もお客さんのいない店に入ってもあとからたくさん人が入ってくるの」すると数分も経たないうちにどやどやと男性が四人、その後に更に二人のお客さん。「ほんとなんですね」マスターが驚いていた。お気に入りの温泉に行くと張り紙がしてあった。メンテナンスのために休業しますと。これはがっかり。

朝日が木々の間から登ってくるのを眺めていてふと気がついた。うつ病治ってる!












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