2024年12月10日火曜日

平和な日々

9月に引退宣言をして呑気な日々を送っています。しかし毎日が緊張に次ぐ緊張の生活が一変してしまうと、どうもボケが加速しているようでだんだん心配になる。私の内なる声がヴァイオリンを弾きなさいと囁く。

まず手の指が油切れになって関節がギクシャクしてきた。肩が固くなって きた。姿勢を保つのが大変。常に背筋を伸ばすのは楽器を弾いている間はなんでもないけれど、テレビを見ているとだらしなく椅子の背もたれによりかかり、ああ、つまらないことなどと思いながらの数時間。時間がもったいないと思う反面、普通だったらこの年でこれほど健康ならそれだけでも御の字と自分に言い聞かせる。こうして一日は暮れて行く。

野良猫だったのんちゃんがどんどん家猫らしくなり、私と一緒にのんびりツヤツヤ。緊張が溶けてきた。今まで外でどれほどの苦労をしてきたかと思うと可哀想でならない。それでも野良にしては地域猫として毎日の餌も不自由しないで生きられたのはラッキーだったのではないかと思う。

のんちゃんは非常に頭がいい。猫でも知能の高い気の強いものが生き延びられるようで、これは人間社会でも同じ。のんちゃんが人の心を読み取る術は恐ろしいほど。それが彼女に野生猫の魅力を与えていた。しかし今や安穏に慣れて、大きな搗きたてのお餅のようになってしまった。私も同じようにだらしなく広がっているような気がする。

そんなことでだんだん退屈になってきたので海外旅行にでも行ってみたいと思うことしきり。今知人が海外に行っている。私の姪とその娘が今頃ニューヨークで自由の女神とはじめましてと挨拶しているかも、軽井沢在住のY子さんはエジプトへ。みなさんこの円安のさなかに大したものです。どこへ行きたいかと尋ねられても困るのほどアテもない。

本当にこんな平和な日が私に来るとは思わなかった。退屈と言ったら罰が当たる。少し休ませてもらいましょう。休むとなると徹底的に何もしないけれど、家の中が少しだけきれいになってきた。「これできれい?」と驚かれるかもしれないけど、これでも精一杯なのよ。

海外はどこに行きたいかといっても目的はないけれど、非常に自然の厳しいところに行きたい。この年で一人参加は旅行社のツアーでうけいれてもらえるのかどうか。以前チベットへ行ったときには中国の旅行社に手紙を出して一人でいった。ガイドさんと車付きだから費用はかかったけれどわがままに行けた。現地人とも思う存分触れ合えた。中国人の家庭の誕生日のお祝いにも招かれて、彼の国の知識人階級がたいそう洗練されていることも知った。今の円安では費用が跳ね上がるけれど、個人旅行が一番望ましいところ。

ツアーで参加しても途中で一人になりたくなる癖があって、顰蹙ものと非難される。若い頃イタリアに女子4人でいったときは、皆一人になりたいという人で助かった。途中、ミラノで一人で靴屋巡り。どうしてもサイズが合わなくて買えず本当に残念だったけれど、向こうの店員さんがとても親切で時間をかけてつきあってくれたのには感激した。壮大な教会の直ぐ側に素晴らしいステンドグラスがある小さな教会を見つけた。暗いろうそくだけの照明の穴蔵のような建物。それも一人で気ままに探さないと出会えなかったと思う。

こうやってだんだんやる気が出てくるのを私は待つ。決して勤勉な人間ではないので向こうから訪れるのを待っていると、不思議なことに何事もうまくいくのだった。

春になったら飛び歩いて自宅にはいないかも。その時のんちゃんをどうするか考えている。もともと野良だから放っておいても一人でも生きられるけれど、私は裏切り者とみなされるだろう。ホテルぐらしは彼女にとって最悪だし、近所の猫好きさんたちに頼むしかない。

地域猫排除の話がもちあがったときに、近所のお兄さんが、自分がすべての責任を持つと言って地域猫受け入れの方向に持っていってくれた。こういう人がいてくれて最近は安心していられるけれど、まだまだ猫の受難話を聞くことが多い。

でも猫のことで悩むだけの日々は本当に平和なのだ。








2024年12月5日木曜日

素晴らしい音の世界

ヴォルフガング・ダヴィッドさんと梯剛之さんのデュオ ・リサイタル

東京文化会館小ホールにて

毎回聞かせていただいているが、今回は圧巻のステージだった。最初から最後まで息のピッタリあった素晴らしいアンサンブル、ダヴィッドさんのウイーン魂が炸裂。今にもヴァイオリンを弾きながら踊りだすのではないか、いや、実際踊っていたけれど喜びに溢れた演奏で会場中の人々の心を捉えて離さない。梯さんはソロコンサートもよく聞かせていただくけれど、今回もまた磨き抜かれた音色を堪能した。

プログラム 

 モーツァルト;ソナタK.378

 ディートリッヒ/シューマン/ブラームス;FEAソナタ 

 私はこの曲を初めて聴いたけれど、周りの人たちも聽いたことがないと言っていたので、自分がすごく無知と言うわけではないと安心した。

FEAというのはドイツ語の Frei aber einsam (自由にしかし孤独に)の頭文字をとったものだそうで、この作品を献呈された19世紀の大ヴァイオリニストのヨアヒムの口癖だったという。ブラームスのヴァイオリン協奏曲を初演するほど親交の深かったヨアヒムが仲を取り持ち、ブラームスは初めてシューマン家を訪れた。シューマンはブラームスの才能を高く評価し、ヨアヒムのためにシューマン自身とブラームスの弟子のアルベルト・ディートリッヒ、そしてブラームスの3人の合作によるソナタの作曲を提案した。という経緯がプログラムにかかれている。

私は初めて聴いたので最初の音で「あ、ブラームスだ」と思ったのは間違いで、彼のお弟子さんのディートリッヒが第1楽章を、2・3楽章はシューマンが、そして4楽章はブラームスが作曲した。名前を伏せていたけれどヨアヒムはすぐにどの楽章が誰の作品か当てたという。初演のピアノはクララ・シューマンが弾いたそうで、夢のようなお話し。彼らの演奏を聴きたかったなあ。随所にFAE(ファ・ラ・ミ)の音が用いられている。

初めて聞いたけれど本当に素敵な曲だった。なぜこの曲は頻繁に演奏されないのだろうか?早速楽譜を探そう。作曲家同士の親交は聞くだけでワクワクする。当時の作曲家同士は、私が思っているよりもずっとひんぱんに交際していたらしい。お互いに刺激を得て、作曲技術を切磋琢磨したのだろう。

次は シューベルト:ピアノとヴァイオリンのためのロンド

 バルトーク;ルーマニア民族舞曲

 クライスラー;ウイーン風l狂想的幻想曲  ここまで来るとダヴィッドさんのお家芸、彼も楽器も弓も梯さんも客席も踊る踊る!割れんばかりの拍手でコンサートが終了した。

帰りがけにマネージメントオフィスのスタッフが「彼らは昨日、石川県の白山から帰ってきたばかりなんですよ」え、白山?私が素晴らしいパワーを貰ったあの勝山市の平泉寺に近いではないか。道理ですごい迫力だと思った。

私も今迄で一番つらい時期に福井県の勝山市に行った後、ジグゾーパズルのピースが適所にピタリとハマるように問題が解決し始めた不思議な体験をした。あのへん全体が霊的な雰囲気を漂わせている。北陸はすごい!

パワースポットって本当にあるのだと思った。

コンサートからの帰り道、一緒に帰る電車の中でも友人とニコニコが止まらない。「なんだか体がホカホカするわね」「そうねえ」