元野良猫のんちゃんはだんだん飼い猫らしくなってきたものの、やはり時々気が荒ぶるときがあって、私は目が覚めると腕に引っかき傷が絶えない。眠っているときに寝返りを打ったりして彼女を怒らせるらしい。甘えて膝によじ登ってくるからよしよし、抱っこしているとなにかお気に召さないらしくいきなり噛みついてくる。恐ろしい。
彼女と一緒に私の家に通うようになったのはのんちゃんの兄弟猫。お兄ちゃんか弟かわからないけれど、巨大なオス猫でまるでツチノコ体型。その割には気が弱く近所のオス猫との抗争に敗れ最近我が家には近寄ってこなかったのが、寒くなって他のオスが家にこもっているらしくまた戻ってきた。この子は近所でグレちゃんと呼ばれている。
グレとのんは以前は二匹でわがやの駐車場で毎日餌を食べていた。グレが追い払われてから、のんは寂しそうだった。この二匹は桜猫。不妊と去勢の手術を受けさせて地域猫として、近隣の優しい人たちに守られている。のんちゃんは他の家ではクロちゃんと呼ぶらしい。
のんちゃんは非常に気が強く滅多に人になれなかったけれど、私にだけは抱っこさせるので自然とうちの子になった。彼女は気が強くて好き嫌いが激しいので、よほど気を許した人でないと大怪我をする。私もはじめの頃はスネを引っかかれて腫れ上がったことがあった。
その頃は本当の野良だったから爪に毒があり、およそ15センチほどの腫れができた。これは危ないと近所の病院へ行った。化膿止めや消毒をしてもらい帰ろうとすると先生に引き止められた。「破傷風のワクチンを打ちませんか」と。
破傷風菌は土の中に住んでいることが多く、私はその頃北軽井沢に花畑を作ろうと努力をしていた。なれない土いじりで穴一つ掘るのも大変な作業だった。そうか、いかにも破傷風菌が住んでいそうな森の土だから、それはいい考えかもしれない。それではお願いしますと言って一回目の注射をしてもらった。
このワクチンは初回から1週間後に2回目、その後は1年後に3回目を打つと先生がいうので次の週に行くと看護師から言われた。1週間ではなく1ヶ月後ですよ。でも先生は何回も1週間とおっしゃったけど。看護師はとにかく1ヶ月後にもう一度来てくださいという。
その1ヶ月後、私は微熱が続いていた。それでも病院へ行って微熱のことを話しワクチンを打つのはどうなのかと訊くと、看護師はそれはまずいから熱が下がったら来てくださいと言う。ところがその微熱はその後肺炎になって私は入院、ワクチンどころの騒ぎではなくなった。
ワクチンを打てたのは退院後もう1ヶ月ほど先になったけれど、先生が私に文句をいうのでまいった。「一ヶ月って言ったでしょう。でも入院したから仕方がないけど、一ヶ月って言ったでしょう」それを何回も繰り返す。先生無理言わないでください。肺炎になって破傷風菌のワクチンなんて打ったらどうなるのか想像もつかない。およそ医者の言う言葉とは思えない。挙句の果て健康診断を受けたいと言ったら忙しいからもう一ヶ月後にしてと言われる。咳が残って苦しいんですが。
家のすぐ近所に良い病院が見つかったと喜んでいたのに、理由がわからず笑うしかない。その割にはしつこく来年の破傷風菌ワクチンの日の確認。医師の言う通りに動かないといけないらしいけれど、私は自分の体調で病院へ行く。病気でもないのに行く必要はないし、検診を望んだのも肺炎の予後だったからで、もうとっくに良くなってピンピンしている。でもきっと、なぜ検診を受けなかったのかと言われるのだろうなと、変わり者の先生にいささか困っている。
この先生は野良猫の引っかき傷から始まったお付き合いだけど、このまま継続して大丈夫だろうか?兄弟猫は今日も私の家でのんびりと日向ぼっこ。お兄ちゃんと一緒だとのんちゃんも穏やかで助かるのです。あの先生も野生動物の類なのかしら。獰猛ですねえ。
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