割合に友好的な性格だからあまり好き嫌いはしない方だが、この人だけは側に寄られるだけで虫酸が走るという人がいた。
容姿もどこと言って変なところもない。
背が高く、どちらかというと立派な風貌に属するほうだ。
声も大きくて張りのある、よく通る声でカラカラと豪快に笑う。
社会的にも会社経営でお金持ち、学歴も高い。
しかし、初めて会った時に強烈な嫌悪感に襲われた。
話をすれば男社会のしきたりのように、下ネタや虚栄に満ちた話ばかり、レストランのウエイターなどに対する威張り散らした態度の下品なことは、目を背けたくなるようだった。
女性と見ればセクハラを当然のことのようにする。
女性がそうされるのを望んでいるとでも思っているようだ。
礼儀としてさりげなく避けるようにする人もいるが、私などはあからさまに嫌な顔をするので、私に嫌われているのはよく分かっているらしい。
世の中、男女の付き合いの他に、人間として友人としてのお付き合いがあることを知らないらしい。
そんな人と社交上、時々顔を合せるはめになってからは、なるべく顔を合わさない、口を利かないという態度を貫いてきたのだが・・・
その人が最近妙におとなしくなってきた。
なんとなく頼りなげで気弱な風に見える。
今までの傲岸不遜さは翳を潜め、礼儀正しい、嫌みとも言えるほどの丁寧な言葉遣いと、物静かな声に様変わり。
そうなるとなんだか心配になってくる。
今言ったこともすぐ忘れるようで、集まってくれと言うから行くと、なんのために呼んだか忘れているようで、こちらもぽかんとしてしまう。
それが本人を不安にさせるようで、先日も待ち合わせの場所に行くと見当たらない。
それではと他の場所で待っていると、他の人に連れられてやってきた。
そして、会えたのでホッとしたような表情を浮かべる。
連れてきた人は彼が他の場所で、独りぼっちでものすごく不安げにしていた様子を話していた。
他の人からの情報で、今その人は認知症の入り口にいるのだそうで、薬を飲んでいてぼんやりした状態らしい。
あんなに自信に充ちて高慢ちきだった男が、頼りなげにほほえんでいる姿は、哀れと言ってはこちらの思い上がりだろうか。
私に嫌われているのは重々承知していたのに、先日顔を合せたら本当に嬉しそうにニッコリほほえんだ。
あんな嫌みな男が無邪気な子供の様になっていた。
人間幾重にも皮を被っているとこんな風になったときに次第に脱いでいくものなのだなあと思った。
かれは今までの人生で身を鎧で包んで、自分を作り上げてきたのだと思う。
傲慢さも小心さの裏返しだったかもしれない。
いかにも気障な身なりもブランド品で固めているのも、いずれも自信のなさからくるものだったのかもしれない。
初対面の時にあんなにも嫌な感じがしたのは、全てが作り物だったからではないだろうか。
いかにも面白そうに高笑いをするのも、どこか不自然だった。
皮をむいていくと中には脆く、傷つきやすい心があって、それが今薬で溶かされているような。
気の毒なのか、自分に戻れて幸せなのか、その辺は分からないけれど、私の彼に対する嫌悪感は徐々に消え始めている。
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