軽井沢の大賀ホールで弾いてみない?誘われてどんなステージなのか一度試してみようと思ったのでのこのこでかけた。ピアニストのMさんの関係者で地元の先生や、その生徒さんや声楽家たちの集まり。いうなればおさらい会。
先日三鷹の風のホールでヴァイオリニストOさんと共演したMさんはまだその演奏が手に入っていて、私はいわば土俵が出来上がっているところに乗り込んだという状態。すごく楽。曲はベートーヴェンOP.20-3。たいそう若いときの作品のなかでもこの20-3は、ベートーヴェンが急激に成長する様が見て取れる。1~3曲の中で最も優れた構成で、奇をてらわず堂々と正攻法で書かれているのが好ましい。明るく優雅で華やかで。
大賀ホールは軽井沢駅近くなので、軽井沢在住のY子さんに送迎をしていただいた。Y子さんの住まいはその近くにあって、北軽井沢から山を降りた私の薄汚れた黄色い車は彼女の家の駐車場に、私は彼女の運転する高級車で楽屋入り。年をとるとなかなかいいこともあるものだわ。若い人に大事にしてもらえるもの。
出演者が多いのでステージでのリハーサルはなしだそうで、いきなりぶっつけ本番。これは参った。音響は?照明は?ピアノとのバランスは?一本勝負!土俵に登っていきなり勝負するのは相撲取りと同じ。そういえば最近私の体型もアンコ型。違いは塩がないことと、衣装はまわしでなく服をちゃんと身につけていること。
北軽井沢から帰ると映像が届いた。なんとかして見ないようにしようと思ってああだこうだ屁理屈を付けて放っておいたけれど、あまりにも親切に色々送ってくるものだから見てしまいましたよ、世にも恥ずかしいものを。
まずステージにズカズカ登場した私は譜面台をガラガラとピアノ付近に引きずっていく。譜面台の傾きが悪く照明でテカって楽譜が見えない。譜面台の傾斜を直そうとするけれど、あまりにもネジが固く止められていて私の力ではびくとも動かない。なぜこんなに固くねじってあるの?演奏者が自分で角度の調整ができないほど固く閉めないで!
どうしても動かないから楽器をピアノに載せてノコノコ舞台裏へ。スタッフに来てもらって譜面台の角度調節をしてもらう。調節したスタッフは態度が悪く照明の具合を確かめようともせずさっさと引っ込んでいった。仕方がないから演奏開始。少ししか合わせていないのにアンサンブルはまあまあ。音も楽器の調整代金ケチって鼻詰りのまま弾いたにしては、きれいに鳴っている。でも舞台稽古なしのぶっつけ本番はやはりいけません。本当ならもっと鳴らせたはずの楽器がしょぼい。その点ピアノはいい。いつでも良く鳴る。音程も狂わない。
映像を見て気が付いてゾッとしたことは、弓が曲がる!私は弓が曲がらないことには自信があった。今までいつ写真を攝られても弓は常にまっすぐ写っていた。それがぐにゃぐにゃと曲がるようになってしまったのだ。いつの間にこんなになったのだろうか?関節が固くなってきて弓を振り回してしまっている。あらまあ、1からボウイングの練習やり直し。体が固くなっているのも見て取れる。体中が固くなってしまい、微妙な調節ができなくなっているのだ。特にヴァイオリンという楽器は柔軟性が重要で、体のコンディションが即音色に繋がる。これではだめ、ため息が出る。
演奏が終わった、と思ったら私は譜面台の楽譜をむんずとつかんで畳みもしないでぶら下げて舞台をあとにした。そのでかい態度たるや、ああ!
ああ!恥ずかしい!
送られてきた動画を見て一人で叫んだ。そして笑った、なんておかしいんだろう。傍から見たらベートーヴェンのソナタを聴きながら大笑いをしている図なんて、ホラーだあ。
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