2022年10月10日月曜日

梯剛之さんピアノ・リサイタル

東京文化会館小ホールにて

ベートーヴェン「後期3大ピアノソナタ」 作品 109.110.111

梯剛之さんの演奏は彼がまだ若い頃からずっと聴かせてもらっている。

真正面から音楽に立ち向かい、あるときには迷い、あるときには朗らかに、悩み苦しむ姿も見続けてきた。彼の演奏の特徴は情緒に流されず、和声の中にフレーズが鮮明に現れること。一時期音作りにのめり込み、ややもすると音楽の流れが止まってしまうような実験的な時期もあった。それが吹っ切れると次のコンサートではモーツァルトを軽々と弾いたりするのも彼の様々な葛藤を表していた。

そして今、安定の領域に入ったと感じた。すっかり大人になったなんてまるで自分の子供みたいに思うのはずっと聴き続けたから。正確無比に弾く姿に感動を覚えた。フォルテからピアノまで音量の幅が素晴らしい。最大の音量のときには小ホールではキャパが足りないのではと思えるほど。ぜひ大ホールで聞きたいと思う。力強い音量の時にも繊細さが残っている。透明感のある彼の世界がいつでもすべての部分に行き渡っている。

ベートーヴェンの後期の作品だけのプログラムというからちょっと胃もたれするかなと警戒して行ったけれど、彼は見事な円熟の境地に達していた。ベートーヴェンの苦悩もここまで来ると浄化され未来への旅立ちが約束されているように見える。私はこれらのピアノソナタがすごく好きなのだ。弦楽四重奏の作品140以後はもはや人間の手を離れ宇宙的になってしまうけれど、その少し手前のまだ足元が地面についているこの頃の作品は身近に感じられて嬉しい。特に110のフーガは今日の演奏家の手で見事に旋律が浮き上がって心楽しかった。

車を上野駅の駐車場に停めて外に出ると、異常にたくさんの人出に驚いた。家族連れが多く家族でなにしに上野へ?と訊きたくなった。芸術の秋だから美術館?それともパンダのいる動物園?科学博物館もある。私たちは仕事を始めて以来50数年も通っている上野だから興味もないけれど、家族で楽しめる穴場でもあるのかしら。仕事一途できたので他に楽しみを知らないけれど、他の人生もあったのかもしれないと考えた。でももう一度生れても音楽やっているかもしれない。これはもはや業。

ホールで知人にあったので帰りにカフェでお茶を飲んだ。野良たちが足踏みしながら「めしまだかー」と叫んでいると思うと気が気ではないけれど、たまには我慢してもらおう。帰宅したら案の定ドタドタと車に駆け寄るデブ猫とほっそりした美人のら。この二匹はさくら猫だから男女とは言えないけれど、やはりカップルというのかしら。明日は動物病院で蚤よけの首輪を買ってこよう。なにしろ私が2キロも太って膝痛になったのも、強い薬の副作用であわや痴呆症になりかけたのも、目が霞んで困ったのも、この2匹の蚤が原因なのだから。

素敵なコンサートの後が蚤の話で失礼しました。

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