2018年12月21日金曜日

椿姫とメサイア

帰国前日は盛り沢山なメニューが待っていて、怠け者の私もついに一日に2つのプログラムを鑑賞することになった。
このツアーの目玉はヴェルディ「椿姫」
私はヴェルディのオペラはどうも苦手で「椿姫」も大傑作だとは思うものの大好きかと訊かれると、6番目くらいになってしまう。
しかし、このツアーはこれが目的で組まれているので、さようならとはいかない。

私がまだ学生の頃、イタリアオペラが来て大騒ぎ。
私達は渋谷のチケット売り場に徹夜で並んだ。
今でこそソプラノ歌手でもほっそりしている人が多いけれど、当時はすごく太っていると相場が決まっていた。
痩せていては声がでないという伝説があって、まあ、多少影響があるかもしれないけれど、その後キリ・テ・カナワのように痩せていても声が出るということがわかって、騙された気がした。
昔の椿姫。
すぐに死ぬはずなのに、相手役の手が回りきらないほど太っていて、歌詞は「パリを離れて静かなところにいけば、あなたの病気も治るでしょう」と歌われると「うそだ!」と叫びたくなった。

今回の椿姫は世界中に発信するための録画が取られるというので、特に美しい人が選ばれたのかもしれないけれど、上品で美しいプリマドンナだった。
このオペラの腹の立つところは、アルフレードの父ジェルモンの身勝手さ。
自分の娘の幸せのために他の女性を犠牲にする。
「娘さんに伝えて」「あなたの幸せの陰で死んでいく私がいるのを忘れないで」と歌うヴィオレッタ。
しかし、私が一番好きなのは、ジェルモンがアルフレードに田舎へ帰るように歌う「プロバンスの海と空?」「空と海?」だったかしら。
ヴェルディのオペラは確かにどれも最高傑作だけれど、時々理不尽さを感じてしまう。
なんだか私には濃すぎる。

その日の「椿姫」は完璧、文句のつけようのない素晴らしさで聴衆は総立ちの熱狂ぶりだった。

その夜は多くの献立があって、プッチーニの3部作「ジャンニ・スキッキ」などと、ミュージカル「オペラ座の怪人」ヘンデル「メサイア」を選択できたので、私はためらわず「メサイア」を選んだ。
オペラやミュージカルもいいけれど、私はニューヨークフィルが聴きたい。
特に小さなトランペットの音が聴きたい。
きっと素晴らしくうまいに違いない。
ここは本拠地のニューヨークだし。

一人でオペラハウスの近く、リンカーンセンターのデヴィッド・ゲッフェンホールへ歩いて行くことにした。
夕暮れが迫っているセントラルパークを過ぎて、もうすっかり慣れっこになった道をたどる。
旅の途中で一人で行動することは、緊張感と新鮮さを伴う。
最近のニューヨークは安全になったといえども、油断はできない。
それでもなにも好き好んで婆さんを狙う人もいないだろう。
でも黄昏時、顔が見えなければ女の子と間違えて誘拐されるかもしれない。

会場にはオペラハウスで見かける人たちとは雰囲気の違う人種がいる。
もう少し地に足が付いたというか、あまり着飾ってもいないし、ごく普通の雰囲気が好ましい。
食後の楽しみにオーケストラをちょっと聴きにといった風で。

この会場は一見すると質素。
茶色で統一されて木をふんだんに使った内部。
座席も手すりなども簡素で、しかしなんとも言えない居心地の良さ。
それはオペラハウスのような豪華さはなく、まるで近所の公会堂に来たような感じ。
これがニューヨーク・フィルの本拠地?
しかし音響はとても素晴らしかった。
見てくれよりも実質かも。

出演者が出てきたら、なんだかやたらと女性が多い。
私の目的の小さなトランペットはどこに?
たしかティンパ二がないといけないはずだけど、どこ?
あるべきところには歌のソリスト。
えっと!女性は2名いないといけないはずなのに一人だけ。
歌いだしたら、なるほど。
男性歌手の一人はカウンターテナーだった。
体型は少し華奢で、透き通るような女声を出す。
音域は高いけれど完全な女性の声とも違う。
当時もカウンターテナーが歌ったのかしら?

序曲が始まった途端、あまりの気持ちよさにぐっすりと寝てしまった。
ほい、しまった!
しばらくして目が覚めると、透明感のある柔らかな音が響いている。
ああ、美しい。
しかし、モダンヴァイオリンにしては音が柔らかいと思ってよく見たら、ヴィブラートを極力抑えて演奏している。
それで古楽器の音に近いのか、あるいは本当に古楽器を使っていたのかは目が悪くてよく見えない。

後半、お目当てのトランペットがステージに出てきた。
前半彼らはテラス席で吹いているのが見えた。
期待が大きすぎたか、トランペッターが緊張していたか、かなり音程高めでおやまあ。
吹き始める前にステージでペットボトルから水を飲んでいるのが見えた。
相当緊張していたのかな。

ハレルヤコーラスで立ち上がると前後左右、象の大群に囲まれたみたいで、私は草原の子うさぎちゃん状態。
日本でも小さめなのに、アメリカでは人に埋没してしまう。

















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