2023年7月3日月曜日

悪いことばかりでもないけれど

 最近私の姪が暇になったらしく声をかけてきた。コンサートの予定はないの?それで今年の春の古典音楽協会の定期演奏会に誘った。

彼女は聾学校の教師。まだ小学生だった彼女が「私は将来福祉の仕事をする」と言ったのにびっくりした。彼女の気持ちをそうさせたのは何だったのか。私の姪にしては出来すぎの子だった。芯が強く穏やかで無口。私にないものばかり。初志を貫いて大学で福祉を専攻してその後イギリスに留学。もったいないことにダイアナ妃の結婚式の数日前に帰国。ずっと仕事をしていたのが最近定年になったらしい。

らしいというのは私の家族はお互いに相手が何をしているのか深く詮索しない。姪は私の一番上の姉の子で、姉と私は13歳違いだから私と姪はさほど歳は離れていない。家中が彼女の誕生に沸き立った。私は一番下だったからなおさらのこと、それまで可愛がれるものは猫や犬ばかり、人の赤ん坊みたいには面白くはない。彼女は特に聡明でおむつが取れたのはなんと生後半年ほどだったし、幼児期の語彙の数も半端なく多かった。からかうと本気で反応するのが面白い。私達は学校が夏休みになると姪を彼女の両親の元から拉致してきて、姉妹で面倒を見た。

時々パパが情けなさそうに「うちの子返して」と来るのを追い払って、姪も皆からチヤホヤされるので帰りたがらない。人格形成の大事な幼児期を変わり者揃いのおじ、おばを相手に過ごしたから、長じてどんな変人が来ようが動じない性格になれたのではないかと密かに自負するところではある。

その姪の子供・・・何という関係になるのかしら、やはり孫とでも?が母親とともに古典音楽協会のコンサートを聴きに来て、その後弟子入りしてきた。大学で食に関わる勉強をしていたらしい。これもらしいと言うばかりで説明聞いてもわからないけれど。最初に「傍目ではわからないかもしれないけどすごく忍耐のいる楽器だけど我慢できる?」と訊いたら即座に「はい」と力強い返事があって、彼女の自信のほどが伺えた。

始めてみると実に忍耐強い。同じことの繰り返し、何度も何度も同じことを言われても嫌そうではないから、見どころがあるかも。会社では大学で専攻した食とは関係ない半導体を使う機械?の仕事をしているとか。何をしているのか訊こうと思ったけれど、聞いてもどうせわからないからやめた。機械の方がヴァイオリンより難しそう、でも楽器の多様性、音楽の底なしの難しさは限りない。だから終わりのない泥沼。子供の頃声をかけたけれど、誰もが私の下手なヴァイオリンを聴いてあんな音出してと眉をひそめていたのかもしれない、誰一人誘いに乗ってこなかった。

それが今頃になって、年齢的にプロになるのは手遅れだけどというと惜しかったなどとぬかしおる。子供の頃からやっていればなんて言う、今頃になって。まあ、でも大人の手ほどきには慣れているから今後の楽しみが増えた。

教えてみると最初から音がいい。指導者のおかげと言いたいところだけど、素直に真剣に取り組む姿を見ているとやはり本人次第。今どきの若者が超アナログな300年以上も前の楽器を習ってどこが面白いのかと思う。たった一つの音を出すだけでこれほど手間がかかる楽器も珍しいでしょうに。そのうちにわかるけれど、自分の出した音の中に、ある時急にキラリと光る音を聞いたときは何事にも代えがたい喜びとなる。その瞬間が聞きたくて毎日汗水垂らしているようなもので。

毎回同じボウイングの練習ばかりだから気晴らしに「カエルの歌」を教えて輪唱してやったらえらく喜んで・・・こんなことで喜んで行く手にどんな試練が待ち受けてるとも知らずに。最初に念をおしたときには、コレコレこのように難しいけど我慢できるかと訊いたら落ち着いて、大丈夫ですと答えたのを今頃後悔していないかな。今やっている仕事は面白いの?と訊いてみた。即座に「はい、すごく面白いです」と答えが返ってきてある意味期待が外れた。ヴァイオリンを始めようなんて言うから、仕事が面白くなくて自分磨きに走っているのかと思ったら、どうやら私同様好奇心の塊らしい。

仕事が面白いということは幸運なことだと思う。毎日会社に行くのが苦痛でという人が多い中、目をキラキラさせて仕事の話をする。その上、今チアリーディングをしているとも。びっくりした。我が家は私以外は実に地味なバリバリ理系、そういう体育会系の者はいなかった。その中でも私は異端児で訳の分からない音楽の道に進んで母を悩ませた。

しかし兄は音楽好き、その上どうも父も密かにヴァイオリンを弾いていたらしいというから、血の中に面白がりやの要素が多分に混じっているらしい。どうやらこの子も同類のようだ。レッスンが終わってから二人でビールを飲んで様々なことを話し合った。

なんでもやりたいことはやってみるがいい。人生がひときわ輝くから。面白いことになってきた。













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