2023年11月22日水曜日

60年後

 川越に近い埼玉県の某所ホールに集まった4人。

お互い仕事で様々な場所で遭遇する事はあっても各自違うオーケストラのメンバーだったから、すれ違いざまにやあやあと言って立ち話もせずに分かれるようなお付き合い。特に元都響のチェロ奏者のMさんとは久しぶりの対面だった。ヴィオラのKさんとはアンサンブルで割合に頻繁にあってはいるけれど、コントラバスのIさんに至ってはお顔は見たことがある程度。それでも初対面であろうと楽器を弾き始めたら古いも新しいもない仲間となってしまう。特に元都響のMさんと元N響のKさんとは高校時代から大学卒業まで一緒にカルテットと弦楽合奏団を組んでいた懐かしい思い出がある。

芸術祭には色々な仲間と組んであちらこちらに首を突っ込んでいた。ヴァイオリンとヴィオラが弾けるということで需要が多く、弦楽器だけでなく管楽器やハープなどを含む沢山のグループで上級生、下級生を問わず使ってもらえたのが今の私の基礎になっているのだ。

彼らと大学時代に組んでいた合奏団は「ゲホーベンハウス合奏団」なにやら聞いたことがありそうな名前。あの「ゲヴァントハウス」をもじってのネーミングは先ごろ亡くなったヴィオリストの藤原義章さん。4年間素晴らしい仲間との様々な活動は、実はチェロのMさんのマネージによるものだと言うことを今回初めて知った。岡山、島根、福島への演奏旅行、都内では教会でのコンサートなどなど。Mさんはチェロ奏者を引退したあとオケのマネージメントにも関わっており、そちらの才能も大したものだったそうで。

こうして今また集まれたのは本当に幸せなことで、当時の仲間の一人はすでに亡くなってしまった。最後に「ゲホーベンハウス合奏団」のコンサートをしたのは、もう10年くらい前になるかしら、大久保の東響の練習所でだった。その時コンサートマスターを務めた元都響の山田哲男さんがガンで余命幾ばくもない状態でもかつての美しい音を聞かせてくれたものだった。山田さんと私、ヴィオラのKさん、チェロは元大阪フィルのHさんか都響のMさん。夏には美ヶ原で合宿をしたり喧嘩をしたりと大の仲良し。大フィルのHさんはやはりほとんど会うことができず、最近皆やっと暇になったので高校の同窓会で会えるようになった。けれどやはり私達は楽器で会話がしたい。

今回の機会を作ってくれたのは名マネージャーのMさん。息子さんの奥さんが地元でお弟子さんの発表会を開くときに演奏をしてほしいとの依頼だった。曲はシューベルト「鱒」、明日の私の自宅でのミニコンサートの曲目でもある。

同じ曲で良かった。実は最近急激に視力が衰えて新しい曲は見えないと中々難しい。「鱒」は今まで幾度となく演奏しているから多少目が霞んでもなんとかなる。特にヴァイオリンは音が高いので音符の加線(五線から上下にはみ出した音域に加える線)がたくさんあると乱視の私には重なって見えて非常につらい。目が見えるならオーケストラでも弾いていたい。

練習後チェロのMさんとヴィオラのKさんと食事をしなが話していると、年月の隔たりは全く感じられない。楽隊はおとなになれない。いや、ならない。まるで学食でお弁当を食べながら話しているようなのだ。傍目から見ると介護人の目を盗んで施設から抜け出してきて油を売っているように見えそうだけれど。多少足元がふらつくこともあるけれど、声も若い、よく笑う。

またお会いしましょう、おじ(い)さんたち。数えてみたら約60年間のお付き合い。こうして会話よりも一緒に演奏ができるなんて夢にも思っていなかった。素敵な仲間たちに幸あれ。

















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