2018年6月9日土曜日

傍若無人

車を走らせていたら後ろから来た車が追い抜いていった。
そして私の車の前へ。
それは別にどうでもいいけれど、その入り方の横柄なこと!
その次、交差点を左折、私も続いて左折、左側から自転車がくるのはすでに確認していたけれど、前の車は気がつかなかったらしく強引に左折して自転車の前を塞ぐ。
自転車は慌てて止まった。
後ろでハラハラした。

某高級車なのに、往々にして行儀が悪いのはこの車種のドライバーなのだ。
単に運転が下手なだけかもしれないけれど、こんないい車に乗れる人ならもう少し品よく乗って欲しい。
ドライバーの性格が「ぼう・・・・」
その先の4文字熟語が出てこない。
ぼう・・ぼう・・・ぼう・・・ぼう・・・
出てきたのは暴飲暴食。
いやいやそうではない「ぼう・・・?」
その後30分くらいして思い出した。
「傍若無人」
思い出せてよかった。

最近はそんなことばかり。
まわりも「ほら、あの、ヴァイオリンを弾くひとで30歳くらいの・・だれだっけ」
なんて会話が増えてきた。

その中で、今年88歳になった東京交響楽団の元パーカッショニストの芹澤さんは、いまだに頭脳は健在。
ガクタイの中でも教養も学歴も記憶も飛び抜けていた。

今日は芹澤さんの米寿を祝って、元の仲間たちが小田原に集まった。
彼は実家が薬局だったので薬剤師の資格を、次に音大を出て打楽器奏者としてオーケストラへ、次に会計士?計理士?かなんかの資格を取って、金色のバッジを上着の襟に付けていた。

普通の人なら生涯一種類しかできない仕事を、複数やってのけた。
並の頭脳ではないけれど、思い上がらず穏やかで知識をひけらかすことなくニコニコしている。
気持ちに余裕があるのだと思う。

小田原のライオンに集まったのは10人余り。
オケマンたちが集まれば冗談しか言わない。
世間からは規格外れでお金もないし地位もない。
けれど、こんなに幸せな人達がいるだろうかというほど、人生を楽しんできた。

話に必ず出るのは指揮者のエピソード。
枚挙に暇はないけれど、ヤマカズと愛情をもって呼ばれる故山田一男さん。
指揮台や舞台から落ちるのはしょっちゅう、ヒラリと指揮台に飛び乗ったら勢い余って向こう側のチェロの前まで落ちてしまったヤマカズさん。
慌てず騒がず、チェロのトップと握手をして悠々と指揮台に戻って何食わぬ顔。

指揮者協会という組織ができたときの初めての集まりで、指揮者が楽器を演奏することになった。
もともと指揮者は楽器の演奏家から病膏肓、指揮者になる例が多い。
それぞれ、自分の楽器を持ってきてオーケストラを演奏しようではないかと言ったときに岩城宏之さんが「指揮者は皆俺が俺がなのに、うまくいくわけない」と言ったらしい。
それでも集まったメンバーで演奏が始まると、果たして途中で合わなくなる。
フルートを吹いていた森正さん「今どこ~」
でも、ハープを弾いていたヤマカズさんはその上をいった。
「今なんの曲をひいてるの~」

今どき、これらの指揮者たちを知っている人たちも少なくなったと思う。
私がオーケストラに入ったときにはまだ、海軍軍楽隊あがりのバリバリの猛者がたくさんいた。
その中でも中木十郎さんというトランペッターがいた。
例えば往年の映画スターのアドルフ・マンジュウを彷彿とさせる、日本人離れしたハンサムな男性だった。
アドルフ・マンジュウはチャップリン監督の「巴里の女性」スタインバーグ監督の「モロッコ」それから「オーケストラの少女」にも出演していた。
写真は興味があったらネットで見つけてください。

十郎さんはおしゃれで、普通の人が着こなせないような真っ白なバックスキンのコートなんかを着て、当時の男性がまだ履くことも考えなかったような刺繍のついたブーツを履いて・・・トランペットを新聞紙にくるんで抱えて来た。
なにを抱えているのかと思ったら「ケースが重くてかなわないから」と言って。
海軍あがりだから横須賀住い。
遠いから仕方ないけど新聞紙とは!

ある時指揮の石丸寛さんがペトルーシュカの冒頭部分、トランペットのソロに指示を出した。
「十郎さん、そこ”昔々おじいさんがいました”みたいな感じで吹いてください」
するとすっくと立ち上がった十郎さん。
「おじいさんとはなんだ!おじいさんとは!」
指揮者はあわててなにやら弁解。

急病人が出て急遽呼び出された中木さん、下から見た人が燕尾のズボンの裾からパジャマのズボンを発見したとか。
たぶんパジャマまでおしゃれだったので、そのまま電車に乗ってきてしまったのかも。

























2 件のコメント:

  1. うわー、本当に猛者ぞろい。指揮者がそれぞれ楽器持ってきたら「船頭多くして・・・」になっちゃうわけですね。
    めちゃくちゃだけど、面白そう。 海軍軍楽隊から来た中木十郎さん、かっこいいですね。

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  2. 当時のオケマンは本当に規格外の人ばかり。
    育ちも頭も良いし格好良いし、だけど超わがままで若い指揮者は震えていました。そんな時代もあったのね~と歌いたくなるような。
    ホルンのザイフェルトとカラヤンが喧嘩したときの話、言うことをきかないザイフェルトに腹を立てたカラヤンが「俺はカラヤンだ」と言ったら「俺はザイフェルトだ」と言い返したとか。昔は西も東も豪傑揃いでしたね。

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