池上なんとかさんが物知り顔に知識をひけらかす番組があって、鳥肌が立つというのは悪い意味でしか使わないと宣った。
感動で鳥肌が立つとは言わない。
最近の若者はすごく感動したことを鳥肌モノと言って、あれは間違っていると。
恐怖や嫌悪感で使うものだそうで。
しかし、私は本当に感動で鳥肌が立つ方だから、それには納得いかない。
中学生だった頃、横浜県立音楽堂でレオニード・コーガンの演奏を聴いた。
小柄な彼は無愛想な顔で出てきて、見たところは世界的ヴァイオリニストのオーラはなかった。
プログラムの初めはプロコフィエフのソナタ2番。
会場に最初の音が鳴り響いた。
あまりの美しい音に鳥肌が立った。
今でもあの音を思い出す。
その後プロコフィエフのこの曲は私の5指に入るお気に入りとなった。
数年前にデュオ・リサイタルのプログラムに入れた。
かなり以前になるけれど、上野東京文化会館での新春コンサートでも弾いた。
けれど鳥肌が立つような音で弾けたことはない。
むしろ反対の意味だったら多々ありそうな気がするけれど。
音で鳥肌が立つのは、金属同士が擦れたとき。
だから私は食器が金物なのが大の苦手。
ナイフやフォークが擦れあうと、もういけません。パスタにフォークとスプーンがついてきても決してスプーンは使わない。
思い出しただけで、口の中が酸っぱくなりそう。
ピンクパンサーの映画で、黒板を金属の爪で引っ掻いて音を聞かせる拷問の場面。
面白くて笑ったけれど、自分があんな目にあったらすぐに白状してしまうと思った。
コーガンのコンサートのそのあとは夢中で、その後のプログラムが何だったかも憶えていない。
県立音楽堂は音響が良いので有名だった。
今でこそ音響の良いコンサートホールは各地にあるけれど、当時は都内では日比谷公会堂がメインだったから、横浜のここは日本でもトップクラスの音響の良さを誇っていた。
後に自分がこの会場で演奏して、客席で聴く演奏もだけれど、ステージで聴く客席からの拍手の音まで素晴らしいので驚いた。
建て直す計画が出たときに、音楽家がこぞって反対の署名をしたのも頷ける。
この会場では、アイザック・スターン、フランス・ブリュッヘン、イ・ムジチ、ローマ合奏団等の名手たちに出会うことが出来た。
コーガンはその後、東京文化会館でベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いた。
長い前奏が始まると、彼は客席に背を向けてじっとオーケストラの演奏を聞いていた。
オーケストラの人たちは、生きた心地がしなかったのではないかと思った。
特にヴァイオリンは針のむしろ。
嫌でしょうねー。
ホテルのレストランでBGMの仕事をしていたら、なんとコーガンが泊まっていて聴かれてしまったとこぼしていたひともいた。
彼のあの素晴らしい音は血の滲むような研鑽の賜物なのか天性のものなのか。
楽器のせいかも?
一度で良い、出してみたい。
出せたら死んでも・・・良くない。
世界中を自慢して歩くさ。
ただし最初のAの音だけね。
そのあと弾いたら全部おじゃんになる。
と、ここでまた志ん生師匠が登場する。
お前さん半鐘はいけないよ、おじゃんになるから。
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