この季節は夜が長い。睡眠時間の短い私にはつらい。都会と違って森の中は真っ暗だから、夜は表が歩けない。ほんの僅かの街頭が照らす部分以外は真の闇。自分の足元も見えない。
テレビもないこの森の中でどうやって過ごしているかといえば、こうしてパソコンと向き合っているか、食べているか、寝ているかしかない。今回はハリー・ポッターの原書読みの最後の追い込みのために 来ている。第7巻の22章まで読んだ。あとまだ15章くらい残っている。これを完読したからと言って私の英語がうまくなるわけでもないのに、始めてしまったからには完読しないと気がすまないという厄介な性格のためやめられない。これで面白くない本だったら最初から読み通す気はないけれど、作者のローリングさんの罠にハマってしまった。大人こどもを問わずお読みになることをおすすめする。単なる子供の本ではない。
今最初の巻で始まった様々な筋書きの謎だった部分がピシャリとハマってゆく面白さに取り憑かれている。ああ、あのときの意味はこうだったのかと。そのすべてを作者は頭の中にきちんと保存しておいたのだ。最初のうちは小学生くらいの子供向きに語彙も少なくフレーズも短い。しかし今や曲がりくねった路地の先に突然否定形が出てきて意味が逆さまになり、そのまた奥に目に見えない路地が隠されて・・・私にはお手上げの難しさ。パズルのように、しかも深い哲学が隠されていたり。
私は言葉に関しては国粋主義、日本語大好き。英語には興味なかったから学校でも最小限テストのための勉強しかしなかった。こんなことならちゃんと勉強をしておけば、というよりこの本が当時出版されていたらなあと思う。私には難しいけれど、今どきの高校生なら軽く読みこなせると思う。
それで夜が更けてようやく寝ようかというときに猫が騒ぐ。今夜は表に動物がいてウッドデッキでお食事。さっき庭の落ち葉をかき集めていたら、中からどんぐりが出ること出ること、これで春までリスなどの保存食となる。さっき来ていたのは誰だかわからないけれど、美味しそうにバリバリと食べる音がしばらく続いた。どんぐりが大量に降った日の夜は大勢の動物の声がした。「うまいねえ、これ」
今日はお一人様かな。夜の森には様々な音がする。今日来た動物は少し大きい感じがした。でも熊さんではあんめえ。おっと、落語の口調になってしまった。見たくてウズウズしたけれど、シャッターを開けたら熊がいたら大変だからやめておいた。人間だったらもっと怖い。
シャッターは夕方5時過ぎには閉めてしまう。外は真っ暗、少し怖い。5時に閉めて翌朝6時までは外は暗い。だから今の季節は13時間も家のなかで早く夜が明けないかと待ちかねている。
今朝やっと表が明るくなって6時ころシャッターを開けた。木の葉がすっかり落ちた落葉樹がほのかに明るい朝の光を背景にシルエットになって浮かび上がる。まだ太陽は眠そうにゆるゆると明るくなっていく。少し目を離して振り向いて窓の外を眺めると、わあ!山火事?
木立の一部分が真っ赤に燃えている。あっけにとられてよく見ると、そこだけ雲があって、その雲が登ってきた太陽の光を受けて真っ赤に染まっていた。しばらく呆然と眺めていた。
いつまで見ていても飽きないから、私の朝は空と雲を見るのに2時間ほど費やされる。
春夏には木が生い茂って湿度が高く、それなりには美しいけれど、ここの一番いい季節は今頃なのだ。それなのに森の住人たちはさっさと家を閉めて都会に戻ってしまう。木枯らしが身を切るように吹きはじめ空気が一層澄んで浅間山が冠雪する頃、名残惜しいけれど山を降りる。
ここでの一人暮らしも3年、はじめのうちはまだ仕事も忙しかったけれど、今はかなり時間の余裕ができた。それでも野暮用が多く帰宅しないといけない。やっと最近1週間以上逗留できるようになった。年寄りの割にはチャカチャカと動き回ることが多く、馴染みのお店も増えてきた。今日は合鍵の相談にここを建てた工務店まででかけた。
以前の持ち主のノンちゃんはきちんと書類なども保存してあって、でも、そのことを私に伝える前に急逝してしまった。先日合鍵の1本が見当たらなくなった。受け継いだ鍵は3本。ドイツ製の複製が大変難しいという立派な鍵。そうなのだ、ノンちゃんはなんでも良いものを好む。私は簡単なものを好むから、複製するのにドイツに注文しなくてはいけないなどというのはとんでもない災難のようなもの。あるいはドアごと取り替えるか、他の鍵を別につけるか・・・など手段はあるらしいけれど、ひとまず施工した会社へ相談に行った。15キロ離れた山の奥の集落の一角に会社があった。
初めて会う社長はまだ若く礼儀正しい。一通り最善策を考えてセーフティーカードの番号をドイツの会社に送ってもらうことにした。帰り際、何気なく社長がこんなものをもらってと見せてくれたのが木彫りのフクロウ。今私は表札になるものを探している。未だに表札はノンちゃんの名前のままなので、可愛い動物の木彫りとか陶板の表札がほしいと思っていたのに、大きさもピッタリ。ほってくれる人を紹介してほしいと頼んだら、これ差し上げますよ。
いやいや、くださった方に悪いでしょうというと、なに、めったに来ませんから。結局頂いてしまったけれど、社長が事務員の方をちらっと見たのが気になる。もしかしたら彼女は奥さんで、奥さんのお父さんが彫ったのかもとか妄想を膨らませた。私が帰ったあとで大喧嘩になっていないだろうか。
あなたって人は女と見ればやたらにものを上げて、キーッ、悔しい。
いや、女と言ってもあれは婆さんだぞ。金髪になんかしているけど、よく見てみろ。マスクしているからわからないけど百歳近いかも。
おおいやだ、年はとりたくないものだわ。マスクは一生つけていよう。
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