前回北軽井沢に来たとき空を仰いで雲の行方を眺めていたら、目についたのが一本の枯れ枝。ベランダの真上にあってベランダと同じ向きに伸びている。見た目なにかおかしい、と思ったのは今年の夏この枝には葉がつかなかったから。枯れているのかどうかは素人目にはわからない、でも、もしこの枝が枯れていて頭上からドサリと落ちたら、下にいる人はただでは済まない。とにかくプロに確かめてもらわないと、どんな事故が起きないとも限らない。
いつも世話になっている工務店の社長が一目見るなり「あ、枯れてる」どうして分かるのと訊くと、ほら途中の皮が剥けて白くなっているでしょう。ああなるともうだめなんですよ。どうしてこのベランダを作るときに気が付かなかったんだろう。悔やんでも仕方がないけれど、仕事を依頼された方は頼まれたことしかしない。そのときに木の状態も確かめておけばよかった。
足元が悪く普通のはしごや高所作業車は入らないとなると、クレーンで吊り上げて下ろすしかないという。それも足場の関係上屋根の反対側から屋根の上を通って下ろすという。もしクレーンのワイヤーが緩んだら屋根にドシーン!
ノンちゃんの大切な家は可哀想なことになる。工事が見たいと言ったら社長は返事もしない。好奇心丸出しで現場をウロウロされたら危なくてしかたがない。なるべく留守のうちに終わってしまおうという魂胆が透けて見える。前回も木を切る依頼をして「見積もりを」と言ったのに、正式の契約もしていないのに、さっさと私の留守中に切ってしまった。かんがえていたよりずっと安かったから良かったけれど。
あれやこれやで森の木の維持はたいそうお金がかかることを初めて知った。相手は生き物、猫でさんざん苦労しているのにまさか木でもこんなに苦労するとは思っても見なかった。だから私は古い穴の空いたシャツで我慢我慢。何十年も前のものを引っ張り出して着ているのだ。
別荘地はもはや人影がない。車も殆ど停まっていない。その中で真っ黄色の車がミノムシのような木の壁の家の前にいると、目立つのなんのって。どうしてこんなに気持ちの良い季節に皆いなくなるのか考えた。今一番きれいな時、紅葉も山も空気も空も。なんでかえってしまうの?
北軽井沢はとにかく寒い。雪が少ない分骨身にしみるような寒さ、それにからっ風が吹こうものなら歯がガチガチいうほど寒い。まもなくその季節がやってくる。あと数日で氷点下になるらしい。水道が凍ってしまうから、水管から水を抜かないと破裂の恐れがある。11月になると業者から水抜きの注文のはがきがくる。私は12月にもまだ来るつもりだから水抜きは頼んでいないけれど、注文書を見ると水道が破裂しては大変という気持ちになるらしい。あっという間に人も車も消えた。どうしてこんなにいい季節に帰ってしまうのかしらねえ、と言ったら社長は「寒いからでしょ」にべもない。
でも今日も昨日も私はシャツ一枚、ダウンのベストを羽織って外にいる。寒さに強いというよりは気温に鈍感というほうがあたっているかも。風呂上がり、湯冷めして歯をガチガチ言わせながらパソコンのゲームがやめられなくて風邪をひくなんてことも。
今夜もベランダで音がする。カチカチと石を打つような音。なんの音かしら。今朝はベランダになにかの木の実が砕けた跡があった。だれか、リスかハクビシンかそこでかじった残骸?どうやらここのベランダは自宅の駐車場のように動物の餌場になっているらしい。そういえば今朝、庭の下を流れる小川のほうへ猫がおりていこうとしていた。最初はうちの猫が出ていったのかと慌てたけれど、少し毛色が薄い。声をかけたら飛び上がって逃げていった。このへんで飼われている猫なのか、それとも避暑客がおいていったものかはわからないけれど、この森でどんな生活をしているのだろうか。
こうして暇を持て余して夜の音に耳を澄ませていると、童話が書けそうな気がしてくる。主人公は避暑地で置き去りにされた猫。白いメス猫、それを守る茶トラの雄猫。さあ、どんなストーリーになるかお楽しみに。なーんちゃって。
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