2021年11月20日土曜日

さようならハイヒール

 職業柄ロングドレスを着る機会が多く、ステージ用の靴は全部9センチのハイヒール。わたしは小柄なのでドレスの裾を踏まないようにと靴で上げ底していた。その靴で歩けたのに数年前、突然歩行困難になった。

前世はムカデだった私は、気に入った靴を見ると我慢できずに買ってしまうから、クローゼットから玄関まで靴で埋まっている。一度真っ黄色な変わったデザインの靴をネットで見つけた。買おうと思ったけれどサイズが無く涙を飲んだ。でもサイズが無くてよかった。あんな変な靴、どんな服と合わせて履こうというのか。

ところが最近変な服を買った。グリーンと黒と白と黄色のワンピース。おや、あの靴があったらぴったりだったのにと未だに未練たらたら。

それやこれやで変な靴がいっぱいで、ほとんど履かない靴がホコリを被っている。ある年の冬に差し掛かった頃、足首が寒いので急に思い立ってブーツを探した。そして見つけたのはグレーのバックスキンのブーツ。これなら足首が寒くない。デザインも色も素材もなにもかも気に入った。試着することに。それはそれは履きにくい。サイドにファスナーが無いのに足首部分は細くできている。わずかに伸縮する足首もデザイン優先だからほっそりとできている。店員さんに手伝ってもらって足がようやく入った頃には息が上がっていた。

でも素敵!その後お呼ばれだったので意気揚々と、それを履いて目的のお宅に到着した。初めての訪問だったので行儀よくブーツを脱ぐつもりが脱げない。どうやっても脱げない。最初に玄関に出てきたのは、先に到着していた友人。ご当主はまだ奥にいて、先客の友人は私がブーツと格闘しているのを見て目を丸くした。手を貸してくれたけれど勢い余って私は玄関の上がり口で転倒、床に尻もちをつきながらなおももがいているところへご当主登場。何をなさっているんですか?びっくりして見ている。そのうちやっとブーツが脱げた。

その時のブーツはあまりの着脱の難しさにその後は2,3回履いたかどうか。もったいない。素敵なデザインなのに、でもまだ捨てられない。

今日はやっと靴を捨てる決心をした。足首を痛めたのでヒールの高さが問題になる。たとえ歩けても足首を捻って捻挫しかねない靴は捨てることにした。たった2度ほど履いた靴も情け容赦なくゴミ袋へ。ヒールが5センチ以下のものだけ残して、それでも捨てられない靴がある。捨てないからと言って履けるわけでなし、この未練がましさは私らしくない。物に執着しないのが私のはずなのに、靴だけはだめなのだ。ヒールを低くするために新しく注文した靴がさっそく部屋を占領し始めた。それでヒール5センチ以上、ここ数年履いていない靴等条件をつけて捨てることにした。

ずっとスニーカーを愛用していた。そのスニーカーがどんどん増えていまや部屋の主になっている。長い間スニーカーを履いていて少し飽きがきた。それでも歩くには最適なんだけど。かなり前のはなし、私のコンサートのお客さんがスニーカーを履いてきたことがあって、少しムッとした。コンサートにスニーカーを履いてくるなんて!と。その頃はコンサートのお客様は大変オシャレだった。私もコンサートに行くときにはおしゃれをしていった。

それでも今や、おしゃれなスニーカーが人々の足元を席巻していて、私も履いていくようになってしまった。随分昔、ニューヨーカーが出勤のときにはスニーカーを履いてでかけ、オフィスで革靴に履き替えるというニュースを見たときに、へー、そんなことをしているのかと感心したことがあったけれど、今や普通のことでしょうか。ハイヒールが履けなくなって普段履くのはいつもウオーキング用の靴。ずっとそんなだったので最近オシャレな靴が履きたくなってきたのに足首が痛くてままならない。

だいぶ前の話だけれど、テレビを見ていたらデヴィ夫人が出てきて、履いているのはなんと20センチのヒールだそうでえらく感心したことがあった。年齢はわからないけれど、それだけの努力をしているということ。足がよほど健康でないと履けないでしょう。彼女は以前リポーターから「整形はしていますか」と訊かれて「していませんよ。でもその他のあらゆることをしています」と答えていたのが印象に残っている。お金があるからあらゆることができるのでしょう。お金のない私はとりあえず靴を捨てることから始める。今朝はほんの5足ほど捨てた。結局は2,3足あれば事足りると思うけれど、おしゃれ心は捨てないようにしたい。クローゼットの奥深く潜んでいる靴を明日も見つけ出してゴミ袋へ。そのうち間違えて自分をゴミ袋へいれたらだれも助けてくれないかも。

早く早く、本人が気が付かないうちに早く捨てちまえ・・・なんて








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