久しぶりに「雪雀連」の集まりは亡くなったスキーの先生である小川先生を偲ぶ会。池袋のライオンに昼間から集まれるというのは、皆がもう仕事に煩わされることがないという状況だから。会長の山田宏さんも参加予定であったけれど、当日の体調が優れずにドクターストップがかかってしまった。皆、会長に会えると思っていたので大変残念な思いをした。
小川先生は学生時代自動車かバイクかなにかの事故で怪我をして、そのリハビリでスキーを始めてから、のめり込んでいったらしい。講習の間、ほとんど世間話にも乗ってこない。ひたすらスキーの話だけするので誰かしら話題をそらそうと話をふっても、いつの間にかスキーの話題に戻るというこだわりよう。厳しさで有名な浦佐スキー場で修行をしてインストラクターになり、その後雪雀連の会長の山田氏に気にいられて毎年の講習会を開いてくださった。
浦佐スキー場は六日町のひなびたスキー場で派手さはないが、そこのインストラクターはいずれも名人揃い。学生時代からの初心者ではどれほど苦労したことかと思う。ある時雪の斜面を逆さ八の字で登りながら「僕はねえ、他のことでは負けないつもりだけどこれが苦手なんだ。地元で生まれ育ったスキーヤーは、ものすごく早く登れて僕はいつも遅れてしまうけど、彼らは難なく登れるんだよ。子供の時からやってるからね」と。
普通から見ると一種の奇人変人に属するけれど、真っすぐで裏表のない、生徒たちを上達させようと心底手間ひま惜しまないそのお人柄から、何やかやと長年のお付き合いとなった。
ほぼ3年ほど前から体調を崩していたらしいけれど、その頃は私も人生の転換期の慌ただしさ、長年信頼していた人に裏切られたショックで半病人になっていたのだった。そんなことでしばらくスキーもできない状態だったのでお目にかかることもなく、お別れが来てしまったのが本当に悔やまれる。そろそろ体調も戻ってきたので初心者に戻って講習を受けようと思っていたのに。
久しぶりでビールのジョッキを傾けていつも変わらぬ仲間たちと楽しく過ごし帰宅した。昨日はその疲れもあってぐっすりと眠り、目の状態がとても良い。それならば「国宝」の続きが読める。残りはあと4分の1、読みたいけれど読みたくない。終わってしまうのが惜しい。最後がどうなるか気になるのに、わかってしまうのはつまらない。
今朝6時から読み始めた。鳥肌が立つほど集中力が久しぶりに湧いてくる。まずコーヒー豆を挽いてお湯を沸かし、半カップほど淹れたときに我慢できずに本に向かった。小休止のときに飲めると思ったから飲まずにおいてあったのが、読み終えるまで口をつけられなかった。終わったときそういえばコーヒーはどうした?半分入ったマグカップは静かにそこで待っていた。
私は歌舞伎の知識もなく評論家でもなく、映画が面白くて原作を読んだという経緯なんだけど、ただただ面白かったという言葉しか出てこない。情景がはっきりと目に浮かぶ筆力。それは言葉で映像を浮かべられるということで、色々な言葉で読書の感想を述べられるようなものではなく、ひたすら皆さんに読むことをおすすめするしかない。読み終わった途端、悲しいわけでもなく涙が溢れて止まらなかった。
取り残されて冷めてしまったコーヒーがやたらに美味しい。最近のベルリン・フィルといいこの本といい、魅力のある芸術に触れる幸せはなんとも言えない。ただそこに向かう並外れた集中力を要求されるので年老いてからは体力勝負となる。
最近日本のすごさを実感している。自分が幼少の頃の環境から西洋音楽に触れ、海外の翻訳作品に親しんでばかりだったのが悔やまれる。家に琴や尺八もあったし、祖父は風流人で華道茶道を嗜んだと聞くけれど、私が生まれたときにはすでにいなかった。父は新しいものが好きでヴァイオリンを弾いたらしい。
わたしは父がヴァイオリンを弾いたというのは知らず、おとなになって押入れれから古い楽譜が出てきたので随分後で知ったのだった。そんなわけで日本の文化の素晴らしさを最近になってもっと知りたいと思うようになった。まずは「源氏物語」を読破しようかと。無知なので誰かの手助けがいる。まず古典に詳しい先生探しから始めたい。
現代語訳のものを読んでから始めるのが手っ取り早いかも。私に残された時間はもう残り僅か。時すでに遅しかもしれないけれど、なんにも知らず死ぬわけにはいかない。
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