2017年1月12日木曜日

マダム・フローレンス・フォスター・ジェンキンス

いまでもカーネギーホールのアーカイブで最も人気を誇っているのは、1944年フローレンス・ジェンキンスのリサイタルの歌声。

父親の遺産と離婚した元夫からの慰謝料で、莫大な財産を持つフローレンス。
彼女は41歳で歌手としての活動を始めた。
信奉者たちだけを集めた小さなリサイタル。
伴奏者のコズメの素晴らしい才能。
夫のシンクレアの溢れる愛情に支えられた幸せな歌姫。

ただ本人だけが知らなかったのは、彼女が絶世の音痴だったこと。
聴いている人たちは休憩時間にトイレに駆け込み、大笑いをしたとか。
そんな彼女なのに、誰もが彼女を愛し支えようとする。
夫のシンクレアは新聞記者を買収、悪評の出た新聞を買い占め、妻に悟られないようにする。

フローレンスはある時、戦場で戦う兵士たちを慰めようと、カーネギーホールでのリサイタルを決意する。
そしてリサイタルの日、いつもの社交界の人たちの他にも、荒くれ男が大挙してやってきた。
歌が始まると大笑いするが、次第にフローレンスの純粋な歌声に打たれ、会場は拍手に包まれる。

これ、嘘みたいな本当の話。

「人間の声の栄光」というレコードがある。私も一度聞いたことがあって、初めは呆気にとられて思わず笑いだした。
けれどしばらく聴いているうちに、なんとも不思議なことに、心底音楽が好きでたまらないというような歌声に、技術を超越して心打たれた。
特にフルート奏者がオブリガートをつけている歌が一曲あって、そのフルート奏者がよくも噴出さずに吹いたことに、妙に感動してしまった。
ピアノもフルートも超絶アンサンブル。
どんなに彼女が音を外そうがリズムがヨレヨレになっても、完璧に合わせていく。
これを聴くだけでも、このレコードは価値あり。

風邪がようやく治りかけているところなので、あまり人ごみに出たいとは思わなかったけれど、彼女のことを映画化した「マダム・フローレンス」が明日で上映打ち切りになるので、今日やっと腰を上げた。
新宿「角川映画シネマ」

フローレンス役はメリル・ストリープ
シンクレアはヒュー・グラント

メリル・ストリープは「マディソン郡の橋」では少し太った農婦の役。
「激流」では筋肉質の引き締まった体。

「激流」のほうが後だと思うので、農婦役の太った体を、ぎゅうぎゅうに絞っての役作りだったと思う。
「ミュージック・オブ・ザ・ハート」のスラム街の子供たちにヴァイオリンを教える先生役では、本当にヴァイオリンが弾けるようになり、バッハ「二つのヴァイオリンの協奏曲」をアイザック・スターンらと共演。
今回はフローレンスの音痴を再現するために、音を外す特別なレッスンをしたという。

私が最も尊敬する女優さんなのだ。

「ミュージック・オブ・ザ・ハート」の中で私が持っていたワンピースと同じものを着ていたのには驚いた。
OTTOの通販で買ったワンピース。
びっくりしたのなんのって、見た瞬間腰を抜かしそうになった。
私と同じくらいの経済状態の女性を演じるために、あえて安物の通販の服を衣裳として選んだものと思われる。
光栄ではありますが、あまり身なりにかまわない女性の雰囲気を出したのかと思うと、ちょっと複雑な気持ち。













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