2018年3月10日土曜日

孤独なピアノ

先に先にと延ばしていた確定申告書作成。
もうこれ以上延ばせないからやっと書類を探す。
だいたいこんなことは私に出来るわけがないのに、雀の涙の収入なので税理士さんに頼むほどのものでもない。
ずっと自分でやってきた。

だらしがないからいつも領収書が足りない。
今日も引き出しにいれておいたつもりの領収書が何通か見つからない。
年中行事で、死ななきゃ治らない人間はいまさら治るものではない。
あと数年申告すれば、惚けて他人の世話になるか、天国へ行くかして御用がなくなる。
まさか税務署もそこまでは追いかけて来るまい。
最近の重税感では、人殺し~と叫びたくなる人がいるに違いない。
幸いにして私は税金を沢山払えるほど稼いでいない。
けれど、やはりこの先生きていけるの?と思う。

音楽教室も演奏する仕事もほんの僅か残して、リタイア。
見て笑ってしまうほどの額の源泉徴収書が、僅かな仕事先から送られてくる。
申告するのも恥ずかしい。
やっと書類を揃えて、それだけで午前中使ってしまったので疲れた。
お昼すぎに散歩へ出た。

最近の散歩コースは、小さな動物公園。
あまり高くない丘の上にあって、上り坂の途中で富士山が見える。
かなり急な坂道で、最近は途中で息が切れて立ち止まることも多くなった。
上り切ると、まず、鳥のコーナー。
オウムがけたたましく「おはよう」「ぎゃー」
ヤギや鹿、シマウマ、レッサーパンダ、輪尾狐猿、ペンギンなど。
丘の上から新宿の高層ビルまで見渡せる。

ここの園長さんは鳥が専門らしい。
私が、仲間から攻撃されていたカラスを助けてここへ連れてきた時に、治療にあたってくれた。
カラスは害鳥あつかいで、保護してはいけないらしい。
しかし、どうしてカラスが害鳥なのか理解に苦しむ。
死んだ動物の体をついばんで街を綺麗にする。
ゴミを荒らすのは、捨て方が悪いから。
木についた害虫も退治してくれる。
頭が良くて人懐こい。

丘を下ると、最近出来た小奇麗なスーパーやカフェ、フィットネスジムなどがある。
このあたりの商店街は寂れていて、ほとんどシャッターが閉まっている。
そこにマンションとそれに隣接するスーパーが出来て、ほんの僅か活気が出てきた。
帰りに立ち寄って野菜を買った。
私の前世は青虫?と思えるほど野菜が好きで、見たことがない野菜があるとつい手が出る。

自宅が近くなった頃、ある1軒の立派な家の前を通った。
鉄筋コンクリートのガッシリとした建物に広い庭。
高い塀の門扉があいていて、手入れされた庭木と緩やかにカーブした車寄せが見える。

近所の奥さんがある日、一人の女性を連れて遊びに来た。
レッスン室の方へ入ってもらうと、ピアノを目に止めたその人が「うちにもグランドピアノがあるんですよ」「あら、そうですか、どなたがお弾きになるんですか?」
すると誰も弾かないと言う。
なんだ、楽器でなくて家具なんだ。
それからご自宅の自慢話が延々と続いた。
聞いていると、あの立派なお宅の奥様。
なんだか心が病んでいるような印象だった。

私のグランドピアノは実は、寄せ集めで出来た名無しのゴンベ。
ピアノの本体はヤマハ。
あるピアニストが引っ越す時に、タダで上げると言われたもの。
暖房の送風がまともに吹き付けていて、その部分の塗装がひび割れていた。
一緒に行ってくれた「雪雀連」の会長が「いいから貰っときなさい」と言ってくれなければ断っていたかもしれない。
とにかく頂いて、その後はベヒシュタインやヤマハの部品を寄せ集め、1年がかりで出来上がったのは、音の柔らかい世界に一つしか無い私のピアノ。
弾いた人たちが喜んでくれる逸品となった。
かかった費用は新品で買う5分の1ほど。
そんな話をしたら、かの奥様はいささか鼻白んでいるようだった。
なんだか同じ土俵に立つのも馬鹿らしいと、さっさと帰って行ってしまった。
あのコンクリートの冷え切った(かどうかわからないけれど)部屋で弾かれもせず、ぽつんと一人ぼっちのピアノのことを考えると涙が出そう。

うちのピアノはいつも入れ代わり立ち代わりピアニストたちに弾かれて「なんて幸せものなんだ、感謝しなさい」と言ったら「でも持ち主が下手くそで毎日Aの音しか叩かないから、本当ならちゃんとしたピアノ弾きのところへ行きたかった」































2 件のコメント:

  1. 孤独なピアノ、かわいそすぎる。
    その持ち主、心の中では誰かにうちにきて、ピアノを弾いてもらいたいと思っていたのかも。
    持ち主も孤独なのだと。

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  2. ああ、そんな見方もあるんですね。
    障害のあるお子さんがいるとかでお気の毒ですが、ピアノを弾かせてあげればすごく良いケアが出来るのではと、勝手に想像しています。

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