2017年1月7日土曜日

鳩山寛さんの訃報

鳩山さんは私のオーケストラ入団時からの恩人であって、室内楽の共演者として数々のコンサートに出させていただいた仲間でもあった。
このブログにコメントで訃報をお伝えくださったのは、鳩山さんの目黒の教室に通っていた方。
そんなわけで皆さんと一緒にお線香を上げようと思って、現地に着いたらちょっと様子がおかしい。

あまり大勢になってはいけないと喪主さまに遠慮なさって、私には断りのコメントを下さったようだけれど、いつもながらうかつな私はそれを見逃していた。
結局、どうぞご一緒にと言われて、お骨が安置してある部屋へと向かう。
きれいにお花が飾られて、沢山の写真が目に入った。
お元気だった鳩山さんの生前のお姿。

お線香を上げさせていただいた。
不思議と涙は出ない。
最後の最後までヴァイオリンを弾いての大往生。
大好きな音楽とお酒があって、気の向くままに生きて、有り余る才能があって、こんな幸せな人はあまりいないと思う。

鳩山さんは本当に気取らない人だった。
自分を偉そうに見せようなどと言う気はさらさらなく、アメリカ在住の頃、例えばミルシュテイン、プリム・ローズ、フルトベングラー、バーンスタインとか雲の上の人たちとの共演もあったのに、それを口にして自慢することもなかった。
特にフルとベングラーにはとてもかわいがられたとか。
日本に帰国してからは、欧米人と同じような価値観でふるまっていたので、多少煙たがられていて、彼のすごい才能は過小評価されていたようだ。
要するに彼のすごさをわからない人が多かった。
偉そうにしていればいいものをと、私などは歯ぎしりしたくなる。
1)実力以上に偉そうにする人。
 こういう人は結構いて、それが世間にまかり通っている場合が多い。
 自称天才はプロフィ-ルだけすごい!音を聴くとう~ん!
2)実力の通りにふるまう人。
 余裕しゃくしゃくといったところ。
3)実力があるのに偉そうに出来ない人。
 というより、自分が他人にどう見られようと頓着しない。
 
はとかんさんは、この3番目のタイプ。
私は実力がないから、偉そうに出来ないのが情けない。
お嬢様も私のことを覚えていてくださったようで、目黒にお住いのころお宅の庭の藤棚の下で酒盛りをしたり、猫や犬をたくさん飼っていたことなど、懐かしい話題が続いた。

はとかん氏の飾らない性格はヴァイオリンにも出ていて、台所のスポンジを肩当代わりに使ったり、中国製のぴゃーぴゃーいう音のするヴィオラを面白がって弾いていたり、服装もアロハシャツに麦わら帽子、古いケースをわきに抱えて歩く姿は、言われなければオーケストラのコンサートマスターとは思われない。
今どきの格好良いケースを持ってぴかぴかのヴァイオリンで、実力は???という人の方が、はるかにそれらしく見える。

私はと言えば、鳩山さんのおかげでたいそう偉い方とも共演出来た。
ベートーヴェン「弦楽三重奏曲セレナーデ」
大御所のチェリストとの共演はこの上なく楽しかった。
この時には鳩山さんがヴィオラを弾いて、ヴィオラのソロの部分に来ると「聴いてろよー」と言いながら得意げに中国製のヴィオラで素晴らしい音を聞かせてもらえた。
誤解のないように、これは練習の時ですが。
ただ、本番の時お客さんに向かって平然と「聴いているあなたたちよりも弾いている私たちの方がずっと楽しいんです」とか言ってしまう。
そうするとお客さんを楽しませるよりも自分たちのために弾いているのだったら、楽しんでいる方が入場料を払うべきだと主張する人も出てこないとも限らない。
鳩山さん、めったなことをおっしゃらないほうが。
だったら上等なお茶と羊羹を用意して、手土産の一つも出さないといけなくなるでしょう。
実際、弾いている方がずっと楽しいことは言うまでもない。

お線香をあげてから、ネットで知らせてくださった方たちと一緒にお茶をしながら、話に花が咲いた。
今日は鳩山さんのお父様(空手の名手)のことを調べていた結果として私のブログにたどり着き、それ以来のお付き合いのSさんも一緒だったので話題が多岐に亘り、皆のエピソードをつなぎ合わせると様々な鳩山さん像が見えてきた。
鳩山さんとお父様のことは「こちら」のブログでご覧になれます。

オーケストラの入団テストの翌日から始まった、鳩山さんと私のお付き合いは幕を閉じた。
もう一緒に弾くこともできないと思ったら、私は自分がかわいそうで涙が出た。


















6 件のコメント:

  1. nekotama様
    昨日はご一緒いただきありがとうございます。
    鳩山様のお父様は昭和の始めに、息子に子ども用バイオリンを与えたくて、台湾では貴重な「水牛の角」を楽器店に持ちこみバイオリンの代金の代わりにしてほしいと頼んだという話があります。 もちろんそれは無理なことでしたが、そんな父にして、鳩山様の自由奔放さがあるのだと思います。お父様は空手の天才、その息子はバイオリンで傑出した才能をもつ親子。 鳩山様の昨年の演奏をお聞きしましたが、素晴らしい音色で驚きました。 
    冥福をお祈りします。

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  2. こんなことを言うのもおこがましいのですが、私たちの大先輩を知っていただいてとても嬉しいです。空手とは全く違う世界とお思いでしょうが、どんな技術でも必ず到達する頂点は同じことだとびっくりいたします。生前の鳩山さんがたまたまnyarcilさまと知り合ったのも、本当にご縁があったのだと、不思議な気がいたします。何回もあの人はどうしているかね?と訊かれましたから、きっととてもお目にかかりたかったのだと思います。
    お父様のことからお近付きになれて、本当にうれしかったのではないかとも。ありがとうございました。

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  3. nekotama様
    何をおっしゃるのですか。nekotama様は本当に鳩山さんにとって頼みの綱だったのだと思いますよ。 本当に信頼していらして。
    なぜなら、nakotama様って本当のことしか言わないから。
    いい意味でまっすぐすぎて、鳩山さんと通じるところがあるのだと思いますよ。これからも、まっすぐでよろしくお願いします。
    (^o^)/ 

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  4. 一度コンサートで私を紹介してくださったときに「この人は演奏中なにが起きてもすぐに対処できる人です」と言ってくださったことがあります。
    ヴァイオリン下手なのに、迷子処理が上手なのが私の唯一の取柄。
    まっすぐと言うよりは、くねくね進む方です。
    でも、買いかぶってくださってありがとうございます。


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  5. 鳩山寛先生のかかれたメモや随筆、散文を捜し集めています。
    お持ちの方は拝見させてくださいませんか?纏めて形に出来ればと考えています。

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