2020年6月19日金曜日

コロナの功徳

まだ感染拡大が終わったわけではないけれど、ここ数か月のコロナ騒ぎの中で得たものは、少なくはなかった。
亡くなった方がいるのでこんなことをいうのは不遜だけれど、私は長年の多忙が当たり前の生活を改められてよかったと思っている。
自分が感染していない(多分)からこんなこと言えるし、これからも感染しないという自信はないけれど。
歯車は一度動き始めると止めるのは大変で、止まるとパニックになる。
けれど、それは長い人生の中のほんの一コマ。
私風情の社会的な地位や才能では、世の中には何の影響も与えない。
ましてや、もう半引退のへたくそヴァイオリン奏者が家にいても、無理に引っ張り出して演奏が聴きたいなどというもの好きもいない。
これはとても気楽でいい。

会社の転勤で大阪に行ってしまった私の生徒が、休暇で戻るからレッスンをしてほしいと言ってきた。
ちょうどコロナが猖獗を極めているころに転勤だったから、そんなときに知らない土地に行く心細さはどれほどかと思った。
それで大阪は食べ物が美味しいよとはげましておいたのだけれど。
大阪はコロナに関して優等生。
東京にいるより安全だったねという話になった。
あなた、運が良かったと言ったら彼女は「そんなポジティブに考えたことなかった。確かに会社も休業が多く、引っ越しの荷物もゆっくりかたずけられました」と。

人はみな自分の幸せに気がつかない。
これが不思議なのだ。
母にある時愚痴った。
「私足が短くていやだわ」
すると母は「でも両足そろって短くてよかったじゃない」ですと。
おみ足のご不自由な方ごめんなさい。
でもそういわれて気が付いた。
健康なら足の長さは気にすることはないと。
ウエルシュ・コーギーは足が短くてかわいいといわれる。
私も相当物好きな人にはかわいいと思われるかもしれないから希望を持とう。

美容整形をして鼻を高くする・・・すると目が気になる・・・あごのバランスが悪い・・・胸が・・・
美容整形を受けた人はかくして泥沼に沈むらしい。
私は初めから泥沼なので、手入れの仕様がないことはわかっている。
それでも丈夫な歯、老眼だけれどいまだに白内障にもならない健康な目、聴力は衰えていない。
これだけで御の字。

コロナで損害を受けた人はたくさんいる。
けれど、例えば津波の災害で家を流され、肉親を失った人ほどは悲惨ではないでしょう。
収入が90パーセント減ったとか、倒産したとかきく。
しかし、ほんの数か月で倒産するようでは、商売を始めた見込みが甘かったというしかない。
冷たい言葉でぐさりときて憤慨するかもしれないけれど。
例えばホストクラブのお兄さんたち。
たぶんルックスが良くないとやっていけない。
並よりも能力ないと女の子にはもてない。
それならほんのしばらくホストやめても働き場所はあるはず。

何度も言うけれど、昭和天皇ご崩御の前年の私たちフリーミュージシャンは悲惨だった。
その前のオーケストラ再建の時の収入もほぼないに等しかった。
しかし、その時に猛烈に働いたおかげで、学校では教わらなかったアンサンブルの基礎を手に入れることができた。
譜読みの速さも身についた。
若さというのは本当にそれ自体が素晴らしい能力なので、いくらひどい生活でもやっていける。
社会に出て最初から成功しようと思わなければ、いくらでも道はある。
コツコツと積み重ねていけば、それ自体が大きな能力となる。
長い目で人生歩めばいいのであって、最後に死ぬ間際に「ああ、本当にいい人生だった」といえるようにしたい。

これも何回も言うけれど、昭和天皇ご崩御のとき、仕事がないのを嘆いていたら「君ね、そういう時は勉強するものだよ」と諭してくれた鳩山寛さんの言葉を思い出す。
だから今私はいつもより時間をかけて練習していた。
いた、というのは今はもう飽きてさぼりまくっているから。
ここで練習が持続できればたいしたもの。
コンサートの当てがないから真剣さが持続できないのは確か。
運動不足で胃の調子が良くない。
食べ過ぎて不摂生をしたら蕁麻疹が出た。

私のような凡人は常にだれかに叱咤激励されないとまともになれない。
けれど、もういい年になるとそうしてくれる人はいない。
以前は、私は自分でそうしないといけない環境に自分を放り込んできた。
睡眠時間も極端に少なかったけれど、今は好きなだけ寝ている。
ゆるみにゆるんで、ついに自分が死んで葬られる夢を見た。
心地よい風の吹く丘の上に横たわる私に土がかけられた。
そして私は、ああ、面白かったとつぶやいている。

素敵な最後だなあ。
本当にこうだったら良いなあ。
4月に私の大切な友人が亡くなった。
5月に食事の約束していたのに。
私より若く才能ある人だった。
彼女も、もうこれで良しと思っていたに違いない。
彼女が緩和ケアに入る前に交わしたメールは、どれも穏やかだった。
抗がん剤が全く効かなかったので、これから緩和ケアに入ります。
あと数週間、長くても数か月です。
淡々とした文面。
皆さんにお目にかかれないのが残念ですと。
コロナのせいでお見舞いにも行けなかった。

彼女が私に託していった生徒のレッスンがはじまった。
人の連鎖がこうして途切れない。





















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