2020年6月2日火曜日

フィジカル ディスタンス

コロナの感染を防ぐために人と人の間の距離を空けましょうという事が言われて、この騒ぎのはじめの頃はソーシャル ディスタンスと言っていた。
それが急に体のことなのでフィジカルが良いと言いうことになって、横文字弱い系の私はついていけない。
なんとでも言うがいいさと思うけれど、言い方以外は大変良いことだと思っている。

日本人は人との距離が近すぎる。
日本人皆家族みたいな国だから、例えば病院の待合室などでベンチに座っていると、すぐ隣に知らない人が来てぺたりと横にくっついて座られるのが一番イヤ。
話好きそうなおばさんが私の顔見てニコニコすると警戒警報マックス。
あらぬ方に目を向けて知らん顔。
ただ私の顔が面白いと思って笑っているのかもしれないけれど、それならもっと腹が立つ。
うっかり会話の糸口がつこうものなら、家族の話、孫の話、聞きたくもない他人の内輪話、それきいてどうする。
しかも知らない人のですよ。
だからと言って人間嫌いではないけれど、病院などでやたらとツバを飛ばして会話するのはいかがなものか。
それがコロナ騒ぎのお陰でやっと皆が気をつけるようになった。
軽い風邪くらいでもひけば命取りになる人もいるだろうし。

会話が弾むのは良いことだけれど、問題は会話の内容。
私は動物の話は大好きだけれど、他人の孫がどうしようと知ったことではない。
孫も動物の仲間ではあるけれど。

ある時、友人のピンチヒッターで仕事を引き受けた。
すでに練習をして残すは本番のみというときに、海外から帰れなくなって私に助けを求めてきた人がいたのだ。
練習に出ていないということは初めて見る楽譜を、会場練習のみで本番で弾くということだから、当然緊張する。
しかもメンバーは全員初対面。
さいわい曲は初めてではなかったし、コンサートミストレスはよく噂に聞く人だったし親近感があったのがせめてものことだった。
ただ、楽譜というのはそれぞれの団体で使っている版が違ったり、コンサートマスターのやり方が違えば当然弦楽器なら弓の動きもちがってくる。
練習で決まったことが私がいままでやったこととは違うこともあるから、油断も隙もない。

おそるおそる会場にでかけた。
相手の人たちは私はベテランだと思っている。
それは年をとっているから。
でも私は前にやったことはすべて忘れる名人だから、常に新人と一緒。
大変小編成のグループだったのでヘマはすぐにわかる。
私が年齢通りのベテランでないことがばれるのは時間の問題。

トイレに行くと鏡の前でコンミスとばったり!
私もこういう時でなければちゃらちゃらと会話ができるのだけれど、珍しく人見知りした。
相手も私とは初対面でどう対処していいかわからない。
鏡越しに軽く会釈をしてニコニコしてはいたけれど、話のきっかけがつかめない。

その日のステージ衣装は黒。
猫の毛発見。
あら、家の猫の毛が....と言ったら、あら、猫飼っていらっしゃるの?
突然嬉しそうにコンミス。
その後は急に猫の話で、トイレで盛り上がった。
スマホの写真を見ると、まさしく猫。
孫の写真見せられてあまり可愛くないと褒めるのに苦労するけれど、猫ならどの猫でもだいたい同じにかわいい。
シミもシワも毛皮で隠れて見えないし、大きさもほぼ一緒。
猫の話なら見知らぬ人の孫の話よりずっと嬉しい。

その後長いことその方にお目にかかることもなく、先日あるコンサートに出演していらしたので懐かしく拝見した。
ステージの雛壇を降りるときに隣の人にそっと手を差し伸べて、お互いに用心深く壇を降りているのを見て、ああ、お互いに年を重ねたものだと感無量だった。
私はもうあの高さなら人手がなければ降りられない。
楽器を持っているからなおさら。

最近、本当に喜ばしいことに人との距離が遠くなったこと。
好きな人ならいざしらず、見知らぬ人とはなるべく近くによりたくないのに、平気で他人の領域に入る人がいる。
猫ならしっぽの毛を逆立ててフーッ!と言えるけど。

電車の中で体験したことがある。
私の乗っている車両に後から乗ってきたカップルがいた。
たぶんご夫婦。
その男性の方が私にピッタリと張り付いた。
いくら私が小さくったって存在はわかるだろうに、私の左脇に全く隙間を開けずに立ったのには戸惑った。
そうっと体をずらすとまだ張り付いてくる。
数回繰り返して堪りかねて、すみませんが間を開けてくださいと言ったら、自分は何もしていないという。
痴漢とかそういう類のひとではなくて、他人に触れているのに気が付かないような風だった。
そばに奥さんがいて、奥さんとは普通の他人とのキョリ。
それなのに他人の私には張り付く、その神経がわからない。
その人は本当になんにも考えずに私と体が触れているのも気が付かないようだった。
多分毎日満員電車でそんなことは日常茶飯事、気にする私がおかしいの?

海外に行くと人の流れやあるきかたがとても心地よく感じる。
お互いにひとの流れを見ながら、ぶつからないように早足で歩く。
だから日本に帰ってきて最初に電車に乗るときには、あまりの歩きにくさに驚くことが多い。
先日私は駅の構内で、いきなり直前をひとに横切られ転倒した。
肋骨にヒビが入っているときで、その上転倒によって胸を打ったので痛くてなかなか起き上がれない。
ぶつかった相手は心配そうに立ち止まってはいるものの、なんの声掛けもしてこない。
悔しいから大怪我したことにしようかと思ったけれど、人だかりができ始めたので死んだふりはやめてあるき出した。
彼は斜め後ろから近づいて私の真ん前を横切ったのだ。
当然私から彼は見えない。
こういうひと最近多くない?
海外でこういうあるき方をする人は見たことがない。
日本人の他人もみな家族、的な関係がそうさせるのだろうか。

それこそソーシャル ディスタンスを守って欲しい。
コロナ報道をする際にはそこのところもひとつ、ワイドショーの出演者諸氏にお願いしたい。












































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