松本から帰っても仲良しの余韻が続き女子会も長く続いていたけれど、北川さんを失ったことでメンバーは徐々に間遠になった。しかしAさんと私は縁あって私の家の最寄り駅あたりが生活の活動圏内、連絡すればすぐに馳せ参じられる距離的な条件で、時々気軽に会えることになった。
コンサートのチケットのことで連絡して話をしているうちに、自然と会う約束になった。お店はいつも同じイタリアンのタヴェルナ、居酒屋とでも言うのでしょうか。昔、作曲家の芥川也寸志さんが好きな冗談は「スペイン語で居酒屋をタヴェルナというんですよ。」かれはオーケストラの指揮をする前にかならず一席冗談を言うのがいつものことだった。
例えば、カニをレコードプレーヤーのターンテーブルに乗せて回すと、いつもは横に歩くのに、降りてから縦に歩くようになるんですよ」とか・・・いっぱい冗談を仰っていたけれど、残念な私の頭はもう記憶が薄れている。とても神経の鋭い方でダラダラと私達が演奏していると大変に怒られた。何事にも真剣で鋭い神経質な方だったけれど、心の温かい弱者に対する思いやりのあるかただった。
当時オーケストラの経営が逼迫していて、私達は働き詰め、その緊張を和らげるために冗談をおっしゃったのかもしれない。純粋な青年の感性をいつまでも忘れないように見えた。
で、私は近所のお気に入りのタヴェルナに行くと、必ず芥川さんのことを思い出す。
Aさんは松本組の中でも特に親しく気があった。彼女のおばさまは有名な方で、私の出身校の副学長か理事長だったか。時々学内のイベントでお目にかかったけれど、私達には雲の上の人だった。女性ながら威風堂々、学長は容貌魁偉で大柄な人だったけれど、その学長と並んでも引けを取らないほどの威厳があった。しかも温かみのあるお人柄が汲み取れる印象で、私はそのかたをすごく尊敬していたのだった。一度もお話したこともないのに。 Aさんがその方の姪御さんであることを後で知ったときにはすごく嬉しかった。
女二人、ワインを酌み交わしながら話は尽きない。北川さんとの思い出はいつものことだけれど、楽器の奏法の悩みとか家族のこととか、それは真面目な方の話題で時には冗談ばっかり。芥川さんみたいに。
私はここ数年アルコールが飲めなかった。ひどいストレスに晒されていたから迂闊に飲んだら悪酔いしそうなので。でも今回は最初からアルコール入りのワイン、美味しく飲んでほろ酔いで帰宅した。なんだか強くなったのかしら?スパークリングワインをグラス一杯、それにワインのボトルを二人で半分以上のんでも気持ちの良さに足もとられない。
体調が良くなってきたらしい。
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