やっと9月、待ちに待った。理由は秋になれば少しは涼しくなるかも・・・だったのに、今日も暑い。いい加減にして!と言いたい。
30年ほど前にもとても暑い夏があって、そのときには秋になっても一向に気温が下がらず本当に辛かった。寒い冬というのはあまり苦にならないのに暑い夏は命がけ。
その年はちょうどあるイべントの幹事を任されていて、非常に苦労したこともあって、よくおぼえている。このあたりの私の人生は波乱万丈だった。良い方も悪い方も両方やってきて、当時は大変元気で勢いが良かったから、大事にはならないですんだ。これは人生の変わり目に大変たくさんの人に会えたことで、その後のわたしの人生は明るく輝いていた。ほとんど無敵の勢いで何でも乗り越えられたのは非常に幸運だったと言える。
そんなとき一緒にコンサートの相棒を務めてくれた人がいた。長きにわたりほとんどの室内楽のセカンドヴァイオリンを弾いてもらって内部から私を助けてくれた人、安原さん。私は彼女のお陰でのうのうと一番上の旋律だけ弾いていればよかった。彼女は性格が穏やかで・・・と、いっても納得しないとどこまでも食い下がってくるようなところもあり、ドイツではフォアシュピールという資格まで取って活躍してきたほどの技術を持つ。本来ならもっと表に出ても良いものを、私のわがままに付き合ってくださった。
要するに私はあんまり緻密なところがなく、呑気に上の旋律を弾いてさえいればいいと。こんな楽なことはない。ただ、我が強く弾きたいことがはっきり自分の中にあるというだけで人を巻き込む。下手であっても自分の考えが表に出せるということで。それでも内声がしっかりしていないと苦労するけれど、当時のメンバーは本当に心強かった。
黙って支えてくれたその安原さんの御子息が素晴らしい青年になって見事なオーボエを披露してくれた。
オーボエ 安原太武郎 ピアノ 土屋宗太 ヤマハ銀座コンサートサロン
ルイエ:オーボエ・ソナタハ長調
カリヴォダ:サロンのための小品 228
伊藤康英:オーボエのためのソナチネ
ヒンデミット:オーボエソナタ
ショパン:ノクターン第2番変ホ長調
ラヴェル:道化師の朝の歌
ラヴェル:クープランの墓
この若者二人、只者ではない。オーボエという楽器はすべての楽器の中でも特別むずかしいと言われる。実はどの演奏家も自分がやっている楽器が世界で一番難しいと思っている。それでもオーボエの難しさはわかるような気がする。あの狭い二枚のリードの中に息を吹き込んであんなに美しい音を出すのはきっと至難の業に違いなかろうと思う。リードは細く2枚の間が超狭いから息が多くは吹き込めない。息が余って苦しいらしい。このへんは専門家に訊いてみてください。私にはわからない。
昔聞いた話ではその苦しさでオーボエ吹きは髪がハゲるというとんでもない伝説があった。それでもなるほど、私の知る限りではよほど若くなければ、ほとんどのオーボエは禿げていた。今思うと演奏法が確立されていなかった日本では力みすぎるオーボエ吹きが多かったということなのか。それと髪の毛の関係はどうやら殆ど無いとは思うけれど。
しかしながら本日の主役はふさふさ髪、伴奏と独奏ピアノの奏者もふさふさ、今どきのスラッとした若者二人。世の中変わった。一体何の話かわからなくなったが、それで、素晴らしい演奏だったということに尽きるのだ。最初から最後まで美しい音を堪能させていただいた。客席も大いに沸いた。
オーボエもだけれどピアノの演奏も見事で、かつてのピアニストにありがちだった鍵盤をひっぱだく演奏法がようやく過去のものになってきた。久しぶりにショパンが聞けて嬉しかったし、彼の伴奏の見事さにも惚れ惚れした。本当に楽しいコンサートだった。
安原太武郎さんはタブロウと読む。フランス語の絵(tableau)という意味でつけたのに「間違えてブタロウって読まれるのよ」とお母様は笑っていたけれど、おしゃれな名前をつけたものですね。芸術一家らしい。ちなみにお父様は安原理喜さん、かつてオーケストラのオーボエのトップ奏者。家族中が音楽家というのも素敵ですね。
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