2016年5月14日土曜日

猫に小判ならぬシャンパングラス

ボストン在住の日本人ピアニストが、日本に居る母親の誕生日のお祝いに演奏して聴かせたいというので、お声がかかった。
人伝てに頼まれたので、一体どんな人なのかも詳しく訊かずに今日初めての練習が始まった。
モーツァルト「ピアノトリオ ハ長調K.548」
短く、シンプルでありながら華やかで、スッキリとまとまった名曲。
これが中々手強い。

6月のコンサートの練習も中だるみ状態で、ちょっとした気分転換にいいかと思って引き受けたのだけれど、息抜きになるほどモーツァルトは甘くはない。
今日、練習場の持ち主チェリストMさんのスタジオに行くと、私と同じくらい小柄な女性が待っていた。
年代も同じくらい。
顔を合わせた途端に話しがはずむから、これはたまらんとすぐに調弦を始めて、半ば強引に音合わせに入った。
いつもならゆっくりお茶を飲んで自己紹介をしてというパターンなのに、さっさと弾き始めた私にMさんはびっくり。

でもムダにお喋りをしていると時間が足りなくなる。
楽譜はやさしいけれど、合わせるのはけっこう難しい。
それに一体どんなピアノの演奏をするのか、早く確かめたかったのもあるし。
初めのうちはお互いに探り合い。
2回3回と合わせているうちに楽しくなってきた。
今回のピアニストは音もきれい、合わせるのも上手い、なによりもバランスが良い。

なるほど、こういう人だったら安心だけど逆に言えば、こちらもよほどきちんと反応しないといけない。
こちらが物を言えばちゃんと答えが返ってくる。
よほどアンサンブルを弾き馴れた人だと思う。
丁々発止と練習が進んで、休憩時間に入った。

ボストンで夏のミュージックキャンプがあるから来ませんか?と嬉しいお誘いがあった。
いくらでも我家にお泊まり下さい・・・ですって。
農場を持っていて、馬にも乗れますだって。
うわあ、行きたい。

ボストンねえ。
ボストンシンフォニーはあこがれのオーケストラ。
ボストンはとても美しい町だと聞いている。
一度は行ってみたい。
誘われれば遠慮無く応えて、行ってしまいますよ。
本当に良いのかな?

休憩を挟んで2時間半みっちり練習したら、えらく疲れた。
最近は体力も視力も落ちて、集中力が持続出来ない。
特にモーツァルトはああ見えて(どう見える?)優美で軽やかでと思われがちだけれど、実際は恐ろしくガッチリとしているのだ。
表面の軽さだけ追ったら、鋼のような鎧が中に見えたりする。
それでいて音はあくまでも軽く・・・なんて、ほんとうに難しい。
しかし弾いて居るときのこの幸福感はなんだろう。

昨日まで弾いていたバッハ、ベートーヴェンはしばらくお休み。
モーツァルトが出て来ると、みんな消し飛んでしまう。

ピアニスト(お名前をきいたのに忘れてしまったので、仮にPさん)は大きな荷物を持っていた。
そして、とりだした物は私たちへのお土産。

彼女はアメリカ人と結婚している。
ご主人の家系はメイフラワー号に始まるらしい。
ご先祖のメイフラワー号でアメリカに渡った人が亡くなって、彼と彼の奥さんの結婚指輪を溶かした金をシャンパングラスの飾りに入れた、その記念すべきグラスを私とMさんに下さった。
金の量がグラス11個分しかなかったそうで、2人で6個と5個に分けていただいた。

そのグラスは足の長い30センチもあろうかという大きさ。
グラスの盃の部分は普通のサイズだけれど、丈が高い。
こんな大きなグラスは私には不釣り合いだし、広々としたダイニングの巨大なテーブルにしか合わない。
銀の燭台や天井からシャンデリアが下がったような部屋だったら、さぞお似合いだと思う。
うちの半ば物置と化しているテーブルに置いたら、猫がじゃれて割ってしまうに違いない。
一体こんな上等な物を他人にあげるとは、どんなリッチな人なのか。
うちの足の踏み場もない猫部屋を見たら、仰天するに違いない。
さて、いただいてしまったけれど、どうしよう。

















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