2016年7月4日月曜日

すごわざ

私の家に庭はない。
敷地全体がコンクリートに覆われ、隣家との間にほんの10センチ程度の雨水の通り道があって、そこは土と石ころだけ。
その隙間に、どこからともなく飛んできた種が芽を出した。
隣家との境目には物置があって、その後ろに生えてきたので、お隣が植えた木だと思っていた。

築10年ほど経ってから、その木は我が家の雨水溝の中に生えていることを発見した。
せっかく生えてきたのに可哀相に、塀とコンクリートとの隙間に挟まれている。
ところがこの逆境もなんのその!
すくすくと育った。

よほど強い木らしくしっかりと枝を張って、夏には我家のベランダに陰ができる。
喜んでいたらお隣から苦情が来た。
苦情と言うほどのことではないけれど、ちょっと切らせてもらってもいいですか?という様なことを言われて、初めて気が付いた。
木が茂っているのが煩いと思う人もいるのだと。

それ以来夏になると、茂る前に枝下ろしをするようになった。
ところがこれが私にとっては一苦労。
梯に乗っても手が届かず、ベランダからも手が届かず、最後はお隣のご主人がバッサリ。
御礼はどうするなんて考えると、それも煩わしい。

今年もそろそろ切らないと、苦情がくる。
今朝一計を案じた。

もう一軒のお隣の家がただ今建築中。
建築の邪魔でもあるから、木は今日明日には切らないといけないと思っていた。
そこには大工さんがいる。
電ノコをぶら下げてお願いに行った。
足場が組んであるから、もしだめなら登らせてもらおうと思った。
お願いしたら、私の持っていった電ノコを見て笑っていた。
なまくらですがと言ったら、いやいやいりません。

ヒラリと足場に登り、自分のノコギリでスッスと切り始めた。
上手いのなんのって、あっと言う間に太い枝も切れていく。
惚れ惚れするなあ、こういうのって。
私は工事現場を見るのが好きで、いつまでも見ていて飽きない。
普通のノコギリなのに、私の電ノコの数倍もの早さで切れていく。
道具も良いけれど、腕が違う。

私が男性だったら、ショベルカーやクレーンなどの特殊器械の運転手、または大工さんなどになっても良かったと思っている。
残念なことに女性でチビだから、この世界では生きていけない。
力もない。

あっという間に切り落とされた枝を片付けていたら、虫に刺された。
よく見ると葉の裏に緑色の虫が沢山ついている。
まだ若い。
これから育つというときに許して、虫さん達。

私は枝が茂った木陰で過ごしたいのに、都会ではそうはいかない。
色々な人がいて、折り合いをつけないとギクシャクしてしまう。
その犠牲者が木で、切ろうと思って近づくと悲鳴を上げているような気がする。
お詫びしながら、切っていく。
数少ない木だから、その木には沢山のアリや小鳥や虫がくる。
彼らの住み処をバッサリ落としてしまうのだから、木を切った日は少し気分が悪い。

























2 件のコメント:

  1. 実家の庭に紅カナメモチの木が1本だけあって、夏は幹に、セミが所せましと停まって大合唱。
    低木だけど、他にとまれる木がないんだろうし、庭の土の中で何年も過ごしてるんだろうし。
    生き物って、毎年見てると親しみ感じてしまいますね。うるさくても、ガマンガマン。

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  2. そうそう、木は本当は切りたくないんですよね。
    蝉の声が聞けるだけ自然が残っているということで、私の家の周りではカラスも鳴かないです、目の前が桜並木だというのに。
    なんだか人類の行く末が心配になってきますよ。

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