2017年5月27日土曜日

外套の歌

オペラ「ラ・ボエーム」の最後の方で涙が止まらなくなるアリアは「古い外套」

処はパリ、カルチェ・ラタン。
貧乏な芸術家たちが一緒に生活をして、それぞれの作品の制作に励んでいる。
誰もが貧乏で暖炉に火をおこすこともできない。
詩人ロドルフォは自分の作品の原稿を燃やし、皆に暖をとらせる。
たまたまお金を稼いできた音楽家ショナールがワインや食料を運んできた。
皆が楽しんでいるときに家賃を取りに来た家主を、おだてたり脅したりして追い払う。
そしてクリスマスイブを楽しもうと皆で街に繰り出すことになった。
原稿を仕上げるために一人残ったロドルフォのもとへ、火を借りに来たお針子ミミ。
やっと火のついたろうそくが風で消え、暗がりの中でミミが落とした家の鍵を探す二人。
手と手が触れあって・・・
「冷たい手」「私の名はミミ」と有名なアリアが歌われ、二人は恋に落ちる。
もうこのあたりからハンカチの用意。
町に繰り出した仲間たちと合流して楽しんでいるところへ、画家マルチェッロの元の恋人ムゼッタが金持ちのパトロンと現れる。
マルチェッロとムゼッタは喧嘩をしながらも別れられず、パトロンに彼らの勘定書きを押し付けて一緒に消えてしまう。

ロドルフォは病気のミミの体が日に日に弱っていくのに耐えきれず別れを告げる。
或る日最後の力を振り絞って現れたミミが戻ってくる。
ミミは金持ちの男の世話になっていたが、自分の命の残り少ないことを悟って、一目ロドルフォに会いたいと願ってムゼッタに連れられてやってきた。
そしてミミの冷たい手を温めるために毛皮のマフを買いに行くムゼッタ。
薬を買うために自分の古い外套を売り払う哲学者ショナール。
その時に低音のバスで切々と歌うのが「古い外套よ」
皆が出て行って二人きりになったロドルフォとミミは、初めて会った日のことを語り合う。
本当はミミのなくした鍵はロドルフォがすぐに見つけたけれど、それを自分のポケットに入れてしまう。
ミミもそれに気が付いていたけれど、気が付かないふりをしていたと告白。
そして疲れたミミが眠りに就き、皆が戻ってくる。
ロドルフォ以外の人たちはミミが息を引き取ったことを知る。

おい、みんなどうしたんだ。どうして僕の顔をそんな目で見るんだ。
ロドルフォの悲痛な叫び。
ミミ、ミミ。
短い後奏で幕を閉じる。

プッチーニのオペラの中でも一番好きな作品。
「古い外套」にたどり着くころにはハンカチはぐしょぐしょになってしまう。
昔オーケストラで故鳩山寛さんと並んで弾いていたら、時々鳩かんさんの解説が入る。
「今の場面はね、こういう話なんだよ」と。
いかにも嬉しそうに弾いていた鳩かんさんの姿が思い出される。

皆さんご存知のこの有名なオペラを思い出したのは、私の長年連れ添った「古い携帯」を見ていた時。
この携帯何年使ったかしら。
外側のメッキは剥げ落ち、カードを差し込むところの蓋はとっくになくなってしまった。
一時期スマホに替える話があったけれど、私は頑としてガラケイ派。
喜びも悲しみも、この携帯が送り伝えてきた。
新しい機種にしなければ、世の中の変化に対して機能的に無理が来るかも。
潮時かもしれない。

ロンドンアンサンブルのピアニストの美智子さんが使っていたのは、私のもう一つの携帯電話。
彼女は携帯電話を持っていなかったので、ロンドンアンサンブルの日本での地方公演の間連絡がつけにくく、周りの人たちが困っていた。
それで、いつも私の携帯の世話をしてくれる人が使いやすい機種を選んでくれて、それを強制的にもってもらった。

美智子さんが亡くなってそれが戻ってきた。
その携帯を美智子さんは喜んで使ってくれて、彼女が亡くなる間際まで、それを持たせてくれた人に感謝していた。

返ってきた携帯を撫でて私は泣いた。
まだずっと使ってくれればよかったのに。















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