2017年5月9日火曜日

寂寥感

新国立劇場に行った。
英語の先生でヴァイオリン奏者のルースさんが「ジークフリード」の出番で、彼女の練習前に近所のファミレスでレッスンを受けることになった。
楽しくレッスンが終わってお別れしてオペラシティをブラブラ歩いていたら、以前よく買い物をした店がまだあることに気が付いた。
忙しく仕事をしていたころ、良くこのお店でシルクのパジャマを買ったっけ。
相変わらずセンスの良いシャツなどが置いてある。
手に取ってしばらく眺めていたら・・・急にどっと寂しさが湧いてきた。

このオペラシティのリサイタルホールでリサイタルをしたっけ。
超満員で本当にうれしかった。
けれど、マネージャがそんなに客が来るはずないというのでケチって、プログラムが足りなくなって大恥をかいたわ。
そのマネージャは即馘!
二度と頼まなかった。

最近通販で買ったシャツしか着ていない。
この店の素敵なパジャマも買えない。
仕事していないから収入も少なくなったし。
こんな素敵な場所で仕事をしていたなんて、ずいぶん前のことと思えるけれど、つい最近までこういう処で弾いていたのだ。
思えばいつも仲間がそばにいて、キャッキャと笑って楽しく仕事をしていたのに。
なんだかむなしくなってしょんぼりと電車に乗った。

しばらくうつむいて考えた。
ついさっきまで時間が自分の思い通りに使える今、なんて幸せなんだろうと思っていたけれど、やはり人はみな、なにかに縛られていないと気が済まないらしい。
私は過激に仕事をしたので飽和状態になって、仕事さえなかったらどんなにうれしいかと長年思いながら働いていた。
あれもしたいこれもしたい、なのに仕事があるからできない。
やめるときには悔いはなかったのに、やめて2年も経たないうちにもうこんなことを言い始めている。
これでもう好きなことを目いっぱいできると思ったのは、誤算だった。
やめてのんびりしたら、なにもしたくない。

しかし今、復帰することはできない。
体力も視力も脳力も、減衰の一途。
ああ、寂しい。
でも帰宅して家に入ったとたん、やっぱりノンビリしていいなあ。
これから目の色変えて仕事に出ていくことなんて考えられない。
私は通販の服で身分相応じゃない?
コロッと気持ちは切り替えられた。
あんまり素敵なところへ行くものではない。
滅多に人を羨むことのない私も、あんな場所へ行ったらお腹の虫が騒がしくなる。

最近面白い本を貸してくれる人がいて、読んでみた。

カタリーナ・インゲルマン=スンドベリ作
              
        「犯罪は老人のたしなみ」創元社

老人ホームに一緒に暮らす3人の熟女と2人のジェントルマン。
経営者が変わって待遇が悪くなったホームで、これなら刑務所に入った方がマシだわとばかりに犯罪組織を結成。
手始めは美術館の絵画を誘拐?して身代金をせしめる計画を立てる。
全員歩行困難で歩行器に頼るのは、絵画を隠すための道具でもある。
警備員もまさかこんな老人たちが盗んだとは思わない。
次々にハプニングが起きてあわやと言うときにも、老人であるがゆえに怪しまれない。
高齢ではあってもロマンスあり、サスペンスあり。
犯罪のためにジムに通って体を鍛えたために、見かけよりずっと体は動く。
それぞれが得意な分野で協力し合う。
話が進むにつれて、全員どんどん元気になっていく。

作者はストックホルムの海洋博物館勤務。
小説の執筆で優れた歴史小説に与えられるヴィディング賞を受賞している。

先日読んだ佐藤愛子さんの、執筆を始めたら鬱が治ったと同じかもしれない。
さて、私はめったに鬱にはならないけれど、やはり好きな仕事を離れたのは寂しい。
時々元勤務していた音楽教室が、ありがたくも声をかけてくれる。
それでたまに元の生徒たちにも会えるのはうれしい。
演奏の仕事は室内楽なら受けさせてもらう。
それが年間数回と毎年恒例のテレビの仕事が一本だけ(今年はどうかな?)
とにかく好きなことを好きなだけ。
それでもお腹の虫がささやく。

「早く楽器を売り払って森で暮らそうよ」

森に行ったら行ったで、ぞろ面倒なことを企画するに決まっている。
ことしの夏のコンサート、巧くいくかなあ。
ああ、めんどくさいけど面白い!!!















2 件のコメント:

  1. こちとら、すっかり「勝負xxx」とか、着るものにリキ入れることが無くなってxx年。まだ「素敵なパジャマ」に心惹かれるnekotama様は若い!
    nekotama様にはまだまだ、舞台で大勢のお客さんの前で演奏できる体力と、聞きに来てくれるお客様と、応援してくれる素晴らしいお友達がたくさんいるじゃないですか。 贅沢言ってはいけませんよ。(=´ー`) 

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  2. 皆さんのおかげで・・とよく野球の試合後のインタビューで選手が言いますね。あれって常套句で言わされているのかと思っていましたが、最近は本当に聴いてくださる方たちのお蔭って思いますよ。聴いていただかなければ私の存在はないわけですから。
    「勝負×××」アハハ。昔も今も縁遠いがな。
    よっしゃ!これから勝負しよう!

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