2017年6月1日木曜日

掌中の珠

取手市で中学生の女子生徒が自殺した問題で、今までのらりくらりと1年半もいじめはなかったとしていた市の教育委員会が、文科省の指導が入った途端手のひらを返すようにいじめを認めたという報道で、私は怒りに震えた。

見れば本当に美しく性格も明るいという素敵なお嬢さん。
ピアニストを目指していて、発表会の録画を見ると才能も豊か。
ご両親は彼女の将来をさぞや楽しみにしていたことだと思う。
それを途中で芽を摘まれ、どれほど悲しく苦しい時間を過ごしたことか。

いじめをなくそうとか言うけれど、いじめは絶対なくならない。
きれいごとを言ってないで、いじめたら厳罰にすればいい。
日本のなあなあ社会では、いじめられた方にも原因があるというけれど、いじめる方が絶対に悪い。

このお嬢さんは、ご両親から掌中の珠のように育てられて、他人の悪意を受けるのは人生初めてだったかもしれない。
いじめに対しての免疫がなかったかもしれない。
私の知人のお嬢さんは母親がすごい毒舌なので、学校で多少のことを言われても、お母さんよりひどくはないと言って、ケロリとしている。
私の様に大家族で育つと、人それぞれと言うことを早くから学ぶ。
だからそれぞれの立場から見ると、どんなに良い人でも、ある人にとっては邪魔な存在になることもある。

たぶんこのきれいなお嬢さんはお金持ちの家でピアノも上手い、ご両親も揃って素敵な方たちで、性格も素直で申し分ない人生だったのをねたまれたものと思われる。
妬みは恐ろしい。
私はそれほどのキャリアでなくても、仕事にも友人にも恵まれて楽しく過ごしてきたけれど、その間には様々なやっかみを頂いた。
たまに会う男性からは、ことごとく文句をつけられた。
それはフィンガリングから着ているものからなにやかやと。
その人は某国立大学出身が自慢。
私の方が沢山仕事をもらえるのが面白くないようだった。
ステージで得意げに難しい曲をチャラチャラ弾いている。
私がその時練習していた協奏曲をちょっと弾いていたら、早速フィンガリングに文句をつけた。
「そんなめんどくさいフィンガリング、誰の?」と言うから「あなたの学校の教授のよ」と言うと、押し黙ってしまった。

それが毎回続くからうんざり。
それでも私なら無視できた。
他の男性たちからも、そろそろ仕事やめたら?とか、ひどいことを言われても私はフン!と言ってスルー。
雑草育ちの強みを見せつけた。
誰が何と言おうと自分は自分、きちんと生きていればいい。

実は私も中学時代は独りぼっちだった。
6人も兄弟がいたので当然家は火の車。
中学に入学した時には3歳年上の姉の制服のお古を着せられた。
ぴかぴかの一年生の中で袖口の擦り切れた制服と取っ手のはげた鞄。
さぞや目立ったと思うけれど、私は意に介さなかった。
家が大変なのはわかっていたし、生まれながらのお古の境遇を受け入れた。
少しも恥ずかしくはなかったのは、やはり私がすごい変わり者だったからかもしれない。
独りぼっちは全然問題ない。
親と兄弟が全部外出して独りで留守番なんてことも珍しくなく、猫を抱いて縁側で家族の帰りを待つこともあって、一人で様々な空想をしていたのも楽しかった。

中学ではぼんやりしていたら、友人もできた。
特に音楽の先生には目をかけてもらった。
歌が下手くそだったのに。
それでも私の人生の明るい日差しの中の影の部分は、この中学時代。
たいしたことはなくても感受性の強い思春期の女の子は、物事が重大に感じられる。

可愛がられて育った取手の女子中学生にとっては、本当につらい毎日だったと思う。
とても素直な良い子だったに違いない。
それでなければ、そんないじめに屈することはなかったと思う。
ただ、ピアニストを目指していたなら、もっと強くならないと。
音楽の世界はやっかみと競争の世界。

私が許せないのは、今になって前言を翻した市の教育委員会。
上から言われたとたんヘコへコとおめおめと、謝りに行く、その無様な姿。
よくもよくも・・・
上からと言ったけれど、なにが上なのかは知らない。
どちらにしても国民の税金をもらっている人たちを上と言うのはおかしい。
私だったら泣きわめいて引っ掻いて無様な姿を晒したと思うけれど、自殺した子のご両親は静かな怒りに燃えて最後まで言葉を荒立てはしなかった。
それが余計に深い悲しみと悲痛さを感じて涙が出た。


















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