知人のお父様、Y氏の訃報を聞いた。
ここ数年間、その方のサロンでコンサートを開くときに演奏することが多かった。
ロンドンアンサンブルも毎年12月、コンサートを開いていた。
音楽好きなYさんはいかにも嬉しそうにニコニコとして、演奏の最後までおつきあいしてくださった。
かなりのご高齢なので、椅子に座っているのもつらそうなのに、誰かが話しかけると嬉しそうに会話をなさる。
弁護士さんで、法曹界でも高く評価されるお仕事をなさっていたらしい。
その世界に疎いので私にはわからないけれど、お宅での優しい笑顔とは別の大変頭の切れる優秀な鋭さを持っていたと思う。
つい10日ほど前にも、そちらのサロンで友人が演奏するのでお付き合いで2,3曲デュオをさせてもらった。
いつもは演奏が終わってしばらくすると奥に引っ込んでしまうのに、私が帰る頃にはまだ座っていらっしゃったから、ご挨拶をした。
本当にきれいな優しい笑顔でニコニコしている。
それが最後の対面とはしらず私は呑気に、今日もお元気そうだなあと考えていた。
つい数日前、Yさんがなくなったとの一報があって、お別れの会にかけつけた。
はじめはその日は人と会う予定がはいっていたから、行かれるのはかなり遅れてということになっていた。
ところが当日になって、会う予定だった人から病気になってしまったので予定を変更してほしいと連絡があったので、時間通りの参加ができることになった。
出かけるときに考えた。
いつもあんなに喜んで演奏を聴いてくださったから、お別れに演奏してもかまわないのでは・・・
サプライズで聴いていただこう。
短い曲を数曲用意して楽器を持って家を出た。
はじめのお話では4,5人のごく少人数でとのことだったのに、どんどん参加者が増えて最後には28人でお見送りすることになった。
上野池之端のお寿司屋さんが握ってくれるお寿司とお酒を頂いて盛り上がったところで、この同じマンションに住むオペラ歌手が、壁を揺るがすほどの声量で「千の風になって」を歌った。
しばらく雑談してお寿司もほぼ食べ終わった頃に、楽器のケースを開けて御前演奏をすることにした。
Yさんお嬢さんのY子さんにピアノを弾いてもらって、ヘンデル「ラルゴ」
その後はフォーレ「ベルシューズ」バッハの無伴奏から短い曲を2つ、タイス「瞑想曲」
ほんの10分たらずの演奏だったけれど、思いがあちらに届いたかしら。
特にY子さんと一緒の演奏は喜んでいただけたと思う。
この親子、いつも丁々発止と言い合いをしながら、本当に仲が良かったから。
最後までお元気で天寿を全うされ苦しみもなく逝ったので、お別れの悲しさはあるものの、ご本人の幸せな最後を安らかな気持ちで見送ることができた。
このように年を取りたいと思う、お手本のような人生だったと。
仕事と家庭に恵まれ、同年齢の友人知人は年齢的にほとんど先に逝ってしまったけれど、次世代のお付き合いが増えて、介護施設のスタッフからも本当に大事にされたらしい。
Y子さんの中学時代の同級生と話したら、その頃からこちらの家に泊めていただいて、おじさまには本当に優しくして頂いたのでと涙ぐんでいた。
なくなったときには、介護施設の若いスタッフたちが大泣きに泣いたという。
人生を全うした人だけに待っている、幸せな老後。
私もこうありたいとは思うけれど、この性悪な性格では死んだら皆喜んでお祭り騒ぎになりそうで・・それもまた良しとするか。
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