2017年7月7日金曜日

気難し屋

もうかれこれ2、3か月楽器が鳴らない。
そういう時にはまず自分が悪いのではと思ってしまう。
最近少し体調が悪かったので、1キロ以上やせた。
そのせいで腕の重みがなくなって、筋肉が衰えたのが原因かもと思っていた。
その次には弦が古くて鳴らないのかも。
その次には弓の毛がすり減っているから鳴らないのかも。
梅雨に入って湿気のせいでも鳴らない。

弦と弓の毛を新しくした。
部屋の湿度は常に一定にして、夜間も空調を切らない。
楽器の汚れも極力落とし、駒が垂直に立っているかチェック。
どうやっても鼻の詰まった音がする。

一昨年、渋谷の佐藤弦楽器で調整してもらって、目の覚めるような音で鳴っていたのに。
その直後、佐藤さんは亡くなってしまった。
今までいろいろな楽器屋さんにお世話になっても今一つピンと来なかったのが、佐藤さんの調整は完ぺきだった。
そのことがあるから、今後の調整をどこでやってもらうかは難しい問題だった。
下手な調整をされて、楽器が死んでしまうのではと思ったこともあった。
つい先日佐藤さんが夢に出てきた。
これは早くどうにかしろと言うことだと思った。

とにかくこのままでは限界。
弾く意欲もなくなってしまう。

今日は若手のTさんに診てもらうことにした。
彼のお父さんと私の兄が同じ会社だったので、以前から知っていた。
私の元生徒がここで良い楽器を見つけたので、非常に良心的で腕も良いというのはわかっていた。
ただ楽器屋さんは慎重に選ばないといけない。
自分の意向を反映してくれる人と、職人気質で頑固にやり方を変えない人がいる。
本人に断りもなく勝手にコーティングするような独断専行の人もいる。
これは私が実際の体験。
コーティングしたら楽器の音が変わって鳴らなくなってしまった。
私の生徒は有名な楽器屋さんに行っているけれど、何年経っても糸巻きの軋みがなおらない。
糸巻きが軋むような調整だったら私なら激怒するけれど、穏やかな生徒は毎回言いくるめられてしまうようなのだ。

今朝Tさんに楽器を診てもらった。
ほんの少し駒が本来の位置からずれているのと、魂柱が少し傾いている。
それもわざわざ傾くようにほんの僅か削ってある。
Tさんが言うには「あの」佐藤さんがやったことだからなんらかの意図があるに違いないとのこと。
魂柱というのは楽器の表板と裏板を共鳴させるために箱の中に立っている。
駒のすぐそばにあって、その位置によって音色も音量も変わるという重要な役目を担っている。
駒のずれは0コンマ何ミリという世界。
私は楽器を弾くだけで、調整はとても怖くてできない。
弦を換えるのは仕方がないけれど、その時にどうしてもずれることは避けられない。
駒の傾きは時々自分で直しても、それが正しい位置かどうかはわからない。
自分でやって、下手すれば倒して駒を割ることもある。
弦楽器はこれほど微妙な調整を必要とするので、手間とお金がかかる。

今月弓2本の毛を換えて弦をワンセットそっくり換えて調整をして・・・かかった費用を考えると、現在無職の私はきゃあと言いたくなる。
それでも費用が掛かると時々どこからともなく仕事が入る。
これが私の七不思議。
使うと入る。
使わないと入らない。
現役時代からのジンクスなのだ。

私の楽器は1725年生まれで約300歳。
古い楽器は気難しくて私はいつもバカにされている。
気難しいというのは人でも楽器でも悪いことではない。
気難しさが魅力でもあるわけで。
けれど、遣い手の自分が負けるから、新しくてビャンビャンなる楽器に替えた方が楽かもしれない。
これうちの楽器に内緒ね。
へそ曲げられたら目も当てられないから。
なんたって、本当に気難しいんだから。

目の前で調整してもらうと、みるみる音が変った。
音だから「みるみる」はおかしいけれど。
たぶん1週間もすればガンガン鳴り出すのではと期待している。
果たして結果はいかに。












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