渋谷から北軽井沢へのバスの便があると知ったのはつい最近のこと。
渋谷マークシティの4階バス乗り場から出ている。
前日渋谷へ行ってチケットを買った。
私は毎朝5時ころ起床する。
だから午前中は比較的ゆっくりと過ごせる。
ゆっくり朝ごはんを食べてコーヒーをのんで、さて出かけようと思ったらいろいろ気になることが出てきた。
楽譜は入れた?メガネは?チケットは財布の中?それともバッグのポケット?
確かめ始めるとぜんぶ確認しないと気がすまない。
前夜は完璧な荷造りとおもっていたのに。
予定の時間ギリギリまでチェックが終わらない。
朝のラッシュに電車に乗ることは、めったにない。
マークシティに行くには電車の最前部に乗るほうが近いけれど、混み合うのがいやで電車の最後尾に乗った。
ラッシュ時には遅れが出ることを予想していたにもかかわらず、更に時間がかかってしまった。
渋谷駅到着はバス発車の20分前。
でもマークシティには10分とはかからないとおもったのも大いに誤算だった。
たしかにビルに入ったのは10分前。
前日道順を確かめたにもかかわらず、バス乗り場がない。
はて、昨日は引っ越しする様子もなかったのに夜逃げでもしたか・・
何回も迷って乗り場に息せき切って滑り込んだときにはバスは姿も見えなかった。
ああ、行ってしまったのか。
なんてこった、此の後1時間待たないと次のバスは出ない。
ハアハア喘ぎながらバス乗り場の人に訊いた。
「ふううにゃあ、あの、北軽いニャわ行きのバスにゃどこ?もう行ってしまいにゃしたか?」
口が回らない上に息を弾ませているから、おじさんは何回も聞き直す。
え、え、どこ?ああ、北軽井沢ゆきのバスはまだ到着してないよ。待合室にいてください。
よかった!
その後は快適な高速バスで居眠りをしながら北軽井沢へ。
おなじみの、かつて鉄道の駅だった場所に到着した。
今回の会場の北軽井沢住民センターはその直ぐ側。
そこから今回の主宰者の女性の車で家まで送ってもらった。
のんちゃんの家の鍵を開けると、懐かしい部屋は黙って迎えてくれた。
いつもならのんちゃんが満面の優しい笑みで迎えてくれたのに。
しばらく玄関で涙にくれてしまった。
暗い部屋はシャッターを上げると、一斉に日差しが入って、いつもの雑木林が目にとびこんでくる。
電灯は点いたし、キッチンのお湯も出るけれど、おかしいな、1週間前から入っているはずの床暖房が効いていない。
あちらこちらへ電話して判明したことは、此の家は電気系統が複雑で、30アンペアと60アンペアの2つの契約がしてある。
暖房と浴室は60アンペア系統。
照明とキッチンは30アンペア系。
その60アンペアの系統が切られていた。
しかも浴室にお湯を供給するタンクは、給水しないと始まらないのに水も出ない。
それで今回お風呂に給湯することが出来ない。
なんてこった。
ここを設計したのは北海道の建築士。
自分の最高傑作だと自画自賛するこの家は、とんでもない女性泣かせの家だった。
電源を入れるスイッチは物置の奥の高い所にあって、脚立をつかわないと手がとどかない。
85才にもなったのんちゃんは、どうやってこんな面倒な操作をしていたのだろうか。
頭がよく体力もあったのんちゃんでも、これはとてもきつかったと思う。
そのことを私に告げる間もなく、亡くなってしまったので私はなにをどうして良いかわからない。
とりあえず暖炉に薪をくべて暖を取ることにした。
勢いよく火が上がりパチパチと薪の弾ける音が陽気に聞こえ始め、部屋中がほんわかと温まった頃、後続の車が到着。
夕飯の支度のためにスーパーマーケットで買い物をするついでに、私のお昼ご飯まで買ってきてくれた。
こんな山の中で野菜が美味しいのはもちろんのこと、魚まで美味しいのは解せないけれど、新潟から送られてくると聞いて納得。
ぺちゃくちゃおしゃべりは夜中まで続いた。
次の朝私はいつものとおり5時起き。
どんなに遅く寝ても次の朝は同じ時間に起きる。
昼ご飯を食べて、リハーサル会場へ。
車はコントラバスとか譜面台とか、ぎっしりと荷物を載せているので体を斜めにしないと座れない。
時間になると次々とメンバーが集って、午後2時、リハーサルが始まった。
会場ではすでに今回のお世話をしてくれるサポーターズが忙しく働いていた。
壁面には絵や造花が飾られ、背後には淡い色の照明が。
コンサートだけではなく、総合的な舞台にしようという意気込みが感じられる。
会場の音響は、音楽会場として作られた場所ではないので贅沢は言えないけれど、
天井が低いので期待は出来ない。
その上、最近の極度の乾燥で、私の楽器は鼻風邪をひいたような音しか出ない。
しかも現場にピアノがないので、ピアノの曲はキーボードでの演奏となり、いま1つ響きがわるい。
沢山の困難が待っている中、それでも目一杯の努力が続けられた。
練習が終わって、近所の地蔵川温泉でお風呂に入らせてもらう。
朝のうちにルオムの森のオーナーのAさんが連絡してくれて、由緒正しげな温泉宿にお邪魔した。
竹久夢二の絵葉書などが置いてあるから縁の地ですか?と訊いたら、それほどの縁はなさそうだけれど、品の良い女将がいかにも夢二風で、古風なこの宿にしっくり来る。
側にはお孫さんだろうか、人懐こい女の子がおとなしく控えていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿