2019年2月11日月曜日

YMO

都内某所の某楽器店。
数日前、弦を買いに行ったとき見つけたたチラシ。
私の旧友のチェリストM氏のコンサートがこの楽器店で行われるという。
日付を見たら日曜日の午後で、その日私は午前中のレッスンを終えると後はフリーの予定だった。
その日の生徒も、時間が空いていたら一緒に来るかもしれないと思い誘ってみた。
二つ返事が返ってきたから、レッスンが終わると二人ででかけた。

早めに行って席を確保してから、昼ごはんを食べよう。
会場に着いて見ると、いつもの楽器が飾られているショウケースはどこかへ移動されて、そこにパイプ椅子が50脚ほど並んでいる。
店長さんが何でも良いから椅子において席を確保していいと言うから、きたない帽子で席取り終了。
隣の喫茶店で簡単に食事を済ませた。

開演間近、席はすっかり埋まって臨時の丸椅子が動員される盛況だった。
演奏者とはここ数年会っていない。
出てきたとき、こんな顔の人だったかしらと一瞬訝った。
どうも以前と様子が違う。
しばらく考えて、ああ、ひげを伸ばしたのか。
でもそれだけではない。
こんなに目が大きかったかしら。
すっかりグレイヘアになった長身の彼は、全身黒でビシッと身を固めている。
もちろん猫の毛なんか一本たりとも、チリの1つも付いていない。

こうしてみると中々ハンサム、女性ファンが多いのもよく分かる。
でもなにか以前と印象が違う。
ずっと以前だけれど、彼とはほぼ7年間に亘り、ピアノトリオを組んで演奏活動をしていた。

そのトリオが自然消滅をしたのは、彼の結婚が機になった。

トリオのメンバーは、彼がチェロ、ピアニストOさんと私は女性で既婚。
彼は当時40歳になった頃で独身だった。
コンサートを開いたり、ピュイグ・ロジェ女史のレッスンを受けに行ったり、仲良く活動していた。
いつもピアニストのOさんの家で練習をしていたから、彼女のご主人ともよくお目にかかった。
ある時トリオの名前を決めようと相談していたら、Oさんのご主人が「YMOトリオ」または「Mさんを巡る2人の人妻」はどうかと提案した。
一世を風靡した「YMO」
はてどうして?と思ったら、私達の3人の頭文字がY・M・Oだったから。
あの有名な「YMO」と間違えてチケットを買ってくれる人がいるかもしれないというのが、Oさんのご主人の言い分で大笑い。
結局怪しげな提案は却下され、名無しで通した。

練習のとき、二人の人妻はよく連れ合いに対する愚痴をこぼしていた。
ある日いつものように夫の悪口を言い合っていたら、Mさんがポツリと言った。
「やっぱり結婚はやめようかな」
二人の人妻は仰天して「そんなことないわよ、結婚は良いものよ」と嘘くさいけど慌ててフォローした。
二人とも彼に結婚話がある事を、その時初めて知った。
そのあと彼を攻め立てて告白させたところによれば、20才ほども年下のピアニストがお相手だという。

家に帰って「Mさんが結婚するらしい」と告げると、いつも私の悪口のターゲットであったうちの宿六が「そうか、ちゃんとお祝いしてあげるんだぞ」と、さも物分り良さげに言う。
「二十歳くらいの人ですって」と言うと突然亭主は怒り出した。
「なんだそれは!そんなやつにお祝いなんてしなくていいぞ」
アハハ、いったいこの人何怒ってるんだろう。

男性の女性に対する年齢信仰はすさまじい。
歯ぎしりせんばかりに猛り狂ううちの宿六の思いも虚しく、彼らは松濤にある素敵なレストランで結婚披露パーティー。
桜の花の様な美しい奥さんだった。

その後招待されて新婚家庭に行ったら、玄関に大きな猫の置物が。
たまたま私の手土産も陶器の猫で、同じくらいの大きさのもの。
奥様が何種類ものスパイスをブレンドした本格的なカレーを、ごちそうになった。
帰りがけには玄関の猫は2匹になっていた。

女2人が亭主の悪口を言ってもMさんは気にもとめなかった。
けれどある時、夫の燕尾服をクリーニングに出すのを忘れて、カビを生やしてしまったことがあった。
私の失敗としてそのことを話したら、Mさんが突然怒り出した。
「そんなことまで貴女がする必要はない。自分のことは自分でやらせないと」と。
自分のことを自分でやれる亭主なら、苦労はしない。
その後Mさんは、奥さんとの共演で忙しくなって、トリオは自然消滅した。

終演後ファンに囲まれているMさんに挨拶をすると、とても喜んでくれた。
近くで顔を見て、どうして顔の印象が違ったのかやっと気がついた。
メガネをやめてコンタクトにしたのだ。
連れて行った私の生徒は若い女性。
Mさんが素敵だと何回も言う。
若い女性は頼りになる年上の男性が好き。
男性は年若い女性が好き。
だから、それがどうした!私の居場所はどこ?





















2 件のコメント:

  1. 最近、ブログ面白くなりましたね。
    なんか達観の境地にはいったのか、旦那様の態度がコロッと変わるところとか、猫の置物が2匹に増えるところとか、想像して笑ってしまいました。
    nekotama様、佐藤愛子を越えてください。

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  2. nyarcil様

    いやいや、佐藤愛子・・・さすがです。気が付かれましたか。
    ちょっと意識して一人で笑っていたのがばれましたね。
    いろいろ先が見えてきて心が開放されて、間もなく以前の元気な私になります。

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