2026年1月16日金曜日

宇宙からの帰還

 国際宇宙ステーションから宇宙飛行士の由井亀美也(ゆいきみや)さんが地球に帰還した感想を訊かれて「食べ物や食器が目を離した隙にどこかへ飛んでいってしまわないことに感動した」といわれたそうだ。

私は目を離すとどこかへ行ってしまう楽譜をたくさん持っている。練習の時間をはるかに超える楽譜さがしの時間というと少し大げさだけれど、たしかに家の楽譜たちには足がある。今ひとつ探している楽譜があって、未だに見つかっていない。練習日は迫ってくるし額に汗を浮かべて楽譜棚を引っ掻き回す。文字通り引っ掻き回すのであって探しているのではない。

楽譜は普通ソロパートとピアノ伴奏パートのようにパートごとに作られている。ピアノ用の楽譜は分厚いけれど、弦楽器のそれはやや薄め。だからよく他の楽譜に紛れてしまう。「よく」というのは私に限ってかもしれないが、練習を終えてやれやれというときに、他の楽譜と一緒にパタリと閉じてしまうことがある。こうなると、なかなか探すのは大変なのだ。

例えば、ブラームスのヴァイオリンソナタの伴奏譜にベートーヴェンのヴァイオリンパートをはさんでしまうと、探すのに苦労する。普通の人ならそんなことはしないけれど、私の場合は超うかつなのでよくある話なのだ。しまうときに確かめるなんてこともしないし、早く片付けてコーヒーが飲みたいなどと食い意地が先に立つので楽譜が違う場所に紛れ込んでいるかどうかは気にしない。その結果、次に必要なときに楽譜が見当たらないことはしょっちゅうで、うちにくる生徒たちは心得たもので「先生のうちの楽譜は歩くんですよね」と涼しい顔してつかの間の休息を楽しんでいるようだ。

探すのがめんどくさいときは新しい楽譜を買ってしまう。だから同じ楽譜が何冊もあって混乱に拍車をかけているのだ。でも最近の物価高、新しい楽譜など買うとなるととんでもない。私が子供の頃使った楽譜に時々値段が書いてあることがあって、190円とか高くても1900円とか書いてあると、しみじみと遥かに遠くに来たもんだとの感がする。今どき楽譜は高価すぎて、もう引退した身にとっては高嶺の花なのだ。いままであった楽譜だけを演奏しているっきゃない。

宇宙からの話をしたけれど、宇宙で音はどのように広がっていくのだろうか。モーターなどの金属音なら耳に届くかもしれないけれど、ヴァイオリンのようになにかに反響させないとよく通らない楽器の音はなんの媒体もない真空の空間では届かないのではないだろうか。これ、AIに訊いてみよう。宇宙ではストラディバリウスの楽器も子供の練習用のやすい楽器でも音の違いはわかるのだろうか。だれかヴァイオリニストを宇宙に派遣して宇宙空間でのコンサートを聞かせてもらいたい。

本音は私が行きたいけれど、宇宙ではたぶん音は伝達する環境がないので、聞こえないのではないかと思うけれど。ピアノなら枠が頑丈な木だからかすかに振動は聞こえるのではなかろうか。伝達物質がなければそれも無理?それでは宇宙空間でのリサイタルはむりなんですね。

試しにAIさんに訊いてみた。AIはかく語りき

宇宙は完全な真空で粒子が極端に少ない。振動する相手がいないので音はひろがらない。

映画「エイリアン」のキャッチコピーは「宇宙ではあなたの悲鳴はだれにもきこえない」だそうで、考えるだに恐ろしい。

かのアインシュタインはカーテンが太陽光に当たって変色したことから「光は粒子でもあり波でもある」と考えたそうです。でも、このエピソードをAIさんに質問したらにべもなく「彼はそんなことは言っていない」と返事があった。しかしAIもまだ発展途上だからそのうち考えがかわるかもしれない。面白いですね。もしこのエピソードが本当なら、アインシュタインこそが真の科学者でありまさに天才、私が猫たちと日向ぼっこしてうつらうつらしていてもなんの考えも浮かばない。二人の共通点はどちらもヴァイオリンを弾くことだけ。

私が天才科学者だったら見えない楽譜を呼び寄せる力を発明する。けれど、その前にもう少しヴァイオリンがうまくなる練習法を発明したい。いや、練習しなくてもうまくなるのほうがいいかな。




















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