2017年2月24日金曜日

眠れないコンサート

いつもコンサートに行くと前半は夢の中。
演奏者が緊張しているので、それを見ているのに耐えられず寝てしまう。
ちょうど30分くらいすると目が覚めて、そのころには演奏は興に乗ってきて、楽しくなる。
一度、世界的な日本人ヴァイオリニストが初っ端に音程を見事に外したのを聴いて、こんなに上手い人でもこんなことがあるのかと思った。
ほかにも日本の一流大学の教授である方は、前半はがちがちに緊張するので、その人のコンサートには後半から聴きにいくことにしていた。

数え上げればきりがない。
一流であればあるほど重圧がすごいらしい。
オイストラフがかつて、これがあのオイストラフ?と思うほど緊張したときいた。
それはベルリンドイツオペラにいた私の友人から、よく聞かされた。
少し時間が経つと、ああ、オイストラフだと思うらしい。

それで昨夜も、スキーで疲れたのもあるし、開演前にピアニストのSさんと待ち合わせて食事をした後だから、きっとよく眠れるに違いないと最初から眠るつもりでいた。

ファウスト&ケラス&メル二コフ  トリオコンサート
                 東京文化会館大ホール

プログラム
   シューマン     「ピアノ三重奏曲3番」
   エリオット・カーター「エピグラム」
   シューベルト    「ピアノ三重奏曲1番」

イサベル・ファウスト(ヴァイオリン)の演奏は初めてきいた。
シューマンのトリオの最初の音を聞いたときに、衝撃を受けた。
全身鳥肌ものの魅力のある音。
そこから音楽にすっと引きこまれ、昨夜は眠るどころではない。
耳をダンボにして(古いからわかるかな?)一音たりとも逃すまいと、聞き入った。
繊細でいて決して神経質ではなく、再弱音でも人を引き付けて離さない恐ろしいパワーを感じる。
とんでもないテクニック。
弓が全く重力を感じさせない。
女性特有の温かみや揺れ動く心のひだを細かく表現して、聴く人の心をつかんで離さない。
もっと早く聴くべきだった。

チェロもピアノも・・もちろんヴァイオリンも常に寄り添って、音程もニュアンスもこれほどお互いに合わせられるものかとの驚き。
私はよく思うけれど、音程の良いピアニストと悪い人がいる。
今回のピアニストのすごさは弦楽器とピアノという風にならずに、3人が常にハーモニーをこわさない、ジャンルを超えて一つの音の響きを出す、そのすごさに圧倒された。
いうなればトリオの音?
楽器は越えられる。

2曲目は2012年、103歳だったアメリカの作曲家のカーターの作品で、次の年彼は亡くなった。

リズムもハーモニーも複雑で、エピグラム(警句)と名付けられた、全12曲の短い曲からなる作品。
複雑でいながら透明感のある独特の世界。
静謐と衝動的な感情とが入り混じって、聞いていて飽きることがない。
しかも演奏が素晴らしく、ここでもかれら3人の見事なアンサンブルを堪能した。

会場にはかなり年配の方が多いのと風邪や花粉症のせいか咳がひどくて、シューベルトの時には吸引機の音かしら、空気を吸い込むような雑音などが入って、演奏者の集中力が乱れたこともあった。
シューベルトは曲者で、のんきそうに見えてとんでもなく難しい。
別に間違えたとか音程が・・とか言うのではなくて、ああ、気持ちが揺らいだなと思った。
それほど聴くほうとしても集中していたわけで。

良い演奏会はよく眠れるという人もいる。
安心していなければ眠れない。
今回は良い演奏会のもう少し上をいっていたようだ。

世界中に名演奏家はごまんといて自身が優れたソリストであっても、ほかの人とのアンサンブルをこれほどできる人たちはそう多くはないと思う。
見事なアンサンブルに感動した。
今回東京文化会館の大ホール。
トリオなどのアンサンブルは、大ホールでというのはあまりない。
たいていは私たちがいつも使っている小ホールのほうで上演されるから、今回は音的にも集客力的にもどうかなと思っていたけれど、会場はほぼ満席に近く、音的には全く問題なかった。
私の席は2階席の付き出た庇の下だったけれど、ピアニシモまでクリアに聞こえた。
弦楽器は楽器の向きによって音の通り方が違う。
チェロも斜め後ろから聴くような場所にもかかわらず、良く響いていた。
たびたびの改修によって、文化会館の音響は大変良くなったようだ。
















 













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